第8話 「破魔の剣と聖なる剣・陸に上がった海賊」


「あのさあ、ヨーグル島ってかなり北じゃん。相当長い旅になるなあ・・・。」
そう言ったのはアールグレイだった。
「その心配は無用です。」
そう言ったのはロゼだった。
「この先に、研究所の秘密施設があるんですよ。
そこには、転移魔法の魔法陣があります。そこから、まず北の町カラメルへ向かいましょう。
グラッセの部隊もそちらへ、同じく研究所の魔法陣からカラメルの秘密施設へ
来るはずですから。
なにやら、強い味方が二人、いらっしゃる様ですよ。」
ロゼは妙に喜々としながら話す。
「転移魔法か・・・。強い味方とは誰なんだ?」
カフェラーテが訊く。
「騎士プティング君と、・・・・・ラズベリー王子だそうですよ。」
「あ、兄上!?」
カフェラーテは心底驚いた、そんな顔をして言う。
「あの兄上が・・・何を期待しているんだろう・・・。」
「単にプディングに付いて来たかっただけとかじゃないですか?」
アールグレイは冷や汗かきながら微妙な表情で言う。
「さあ、早く行きましょう。」
ロゼが先を急ごうとしたとき。
「待って。」
後ろで話を聞いていたパエリアが、手にふたつのペンダントの様な物を持って、
一行を止めた。
「これをあんた達にあげるわ。」
「何?」
渡された剣の形をしたペンダントを見て、ガナッシュは訊く。
同じくペンダントを持って、首を傾げているアールグレイ。
「剣を抜いてみて。」
パエリアが言う。
「このちっちゃいの、抜くの?」
そう言いながらアールグレイは、小さなペンダントの剣を抜いてみる。
すると、小さなペンダントヘッドは、不思議な力を帯びた剣に姿を変えた。
「わ、でかくなった!」
「ショコラも抜いてみて。」
「あ、ああ・・・。」
ガナッシュに渡されたペンダントヘッドは、聖なる力を帯びた剣の姿に変わった。
「これは・・・。」
「それねえ、どこからだか頂いてきた代物なんだけど、ホラ、これ凄いでしょ?
なのに、鑑定出来ないって言われてさ。
何かイイ剣かも知れないし、あんた達にあげる。じゃ、がんばってね。バァイ!」
そう言って去ろうとするパエリア。
「パエリア!待て!」
それを呼び止めるガナッシュ。
「ありがとう。これは・・・もしかしたら凄い物かも知れない!」
「ふふ、でしょ?
久しぶりに会えて嬉しかったわ。・・・アールグレイ君、ショコラはニブイから、頑張ってネv」
「えええ?!・・・あ、いや、ありがとうパエリアさん!この剣ただの剣じゃないよ!」
アールグレイの言葉を聞くと、パエリアは去っていった。
「さあ、急ぎましょう!秘密施設へ!」
ミントが張り切りだした。



一方こちらは魔法研究所。
「これが・・・魔法陣ってやつかぁ・・・。」
プディングは、足下に広がる、不思議な輝きを放つ円陣を見ていた。
「これを使うには、結構な魔力が必要なのよ。
さあ、カラメルへ急ぎましょう。」
カシューは、そう言うと、魔法陣に魔力をこめて、発動させた。
円陣は眩しく光を放つ。
「わあっ!」
プディングの声。
一瞬にして、その円陣の上にいた者達は、姿を消したのだった。


眩しい光が、すうっと引く。
恐る恐る目を開くプディング。そこは、同じように魔法陣がある。
「あ・・・れ?」
きょとんとするプディング。
「やーい、ビビってやんのー。」
クラムがからかう。
「るっせえっ!って言うか、どうなったの??」
「ここはもう、カラメルだよ、プリンちゃん。」
そう言ってラズベリーはプディングの肩に手を回す。
プディング、ひじてつ。
その一室の扉を開けるカシュー。その先には、長い階段があった。
階段を上ると、また扉がある。
その扉の先には、プディングの故郷、北国の街、カラメルがあった。


「やけに・・・ひっそりとしてるな・・・。」
故郷の街を見たプディングは、人気のない、妙な静けさに怪訝な顔をする。
「そうね・・・。おかしいわ。」
カシューが頷く。
「カラメルは、北の港町として、栄えていると聞いたが。」
と、グラッセ。
「オレ・・・ちょっと実家に行ってきていいですか・・・。どうしたのか・・・調べてきます・・・。」
普段なら帰りたくないスゥイートホームだったが、流石に家族が心配になるプディング。
「そうね・・・、私達はここで待機しているわね。」
「はい。ありがとう、カシューさん。」
そう言ってプディングは走り出した。
「僕も行くよ。プリンちゃん。」
ラズベリーも後を追う。


「何だ・・・?商店街もこんなに静かで・・・。まるで、ゴーストタウンじゃねーか・・・。」
辺りを見回すプディング。
そして、大きな宿の前で足を止めると、閉ざされた宿の扉に、冷や汗をかく。
「おーい、母ちゃん?何だよ、今日は休みなのかー?!」
ドンドンとノックする。
すると、しばらく間があったが、そうっと、扉が開いた。
「親父!」
「プディング?帰ってきたのか・・・」
「親父、一体、どうしたんだ、この様子は・・・。」
「入れ・・・。」
プディングとラズベリーを通すと、再び戸は閉ざされる。
プディングは、懐かしいたたずまいが、暗く閉ざされているのを見て、不安になる。
「親父・・・どうしちまったんだ?」
「ああ・・・、実はな、海賊が陸に上がってきてな・・・。
街を荒らすんだ・・・。みんな、怖くて閉じこもってる・・・。
氷の様な女海賊が・・・シャーベットの一団が、このカラメルを占拠しちまったんだ・・・。」
「何だって・・・!?」
「母さんも、海賊に向かっていって・・・足に怪我しちまってな・・・。」
「母ちゃん・・・全く、母ちゃんらしいけど、無茶だ!」
「ああ、俺が行ったときはもう遅かった・・・。」
「で・・・海賊は今どこにいるんだ?そのシャーベットとかいう海賊の一団、
オレの剣で叩き切ってやる!」
プディングは拳に汗を握る。
「その声はプディングかい?帰ってきたのかい・・・。こんな時に・・・。」
奥から、松葉杖をついた女性が出てきた。プディングの母だ。
「母ちゃん・・・無理したみてぇだな・・・。」
「全く、情けないよ。今じゃあ、町中怯えてこんなザマさ。」
プディングの母は、年は取れども美しい、金髪の女性だった。
「後れましたがこんばんは。僕はプディングの友達です。流石にお美しいお母様ですね。」
ラズベリーは突然そんな自己紹介をする。
「あんら、嬉しいこと言ってくれるね、兄ちゃん。ははは!」
「僕達で、海賊を追い払いましょう。今、騎士団とともに来ています。
・・・でもそれは秘密で。ね、プディング。」
「あ、ああ?・・・もちろんだ!黙ってられっか!」
二人はそうっと家を出ると、カシュー達のいるところへ戻った。


「そう・・・海賊がね。」
カシューは目を細める。
「これじゃ、船も出ないよね。」
クラムは呑気にそう言う。
「オレは海賊をたたっ切る!」
プディングの心には、その故郷の姿と、母の痛々しい姿があった。



「この円陣がですね、転移の魔法陣です。これを動かすには、かなりの魔力が
必要なんですよ。私は残念ながら、作動させることは出来ても、
魔力を込めることは出来ませんので・・・
お力をお貸し下さいね。」
ロゼは、一行を魔法陣に案内した後そう言った。
「私達の魔力で足りること?」
ミントが訊く。
「ええ。充分です。行きますよ!魔法陣に魔力を込めてください!」
魔力のある、ミント、ガナッシュ、カフェラーテ、カルボナーラ、そしてブレッドが
魔力を魔法陣へ放出する。
一瞬の光とともに、そこにいた8人が姿を消した。


「あ、れ?」
アールグレイが間抜けな声を出す。
「着きましたよ。」
と、ロゼ。
ロゼは一室の扉を開ける。長い階段が姿を現す。
8人は、階段を上り、外へ出る扉を開けた。
すると、そこには、プディング達が居たのだった。
「あ、博士〜、遅いじゃん。」
脳天気なクラムの声。
「先に来ていましたか。」
ロゼも何だか呑気。
「カフェ、久しぶりだねえ。元気?」
ラズベリーが弟に声を掛ける。
「兄上!何やってるんですか?またプディングを困らせているんですか?」
「困らせる?可愛がってるだけだよ。お前が帰ってこないから、シチュードバーグへ
行ったらね、こんなことになってるわけなのさ。」
「はあ・・・。」
ため息まじりのカフェラーテ。
「ねえ!大変なんだ!アールグレイさん、ガナッシュさん、お互い色々と
あると思うけど、まずはオレに力を貸して!
カラメルは、今、海賊にやられてんだ!」
真剣な瞳で訴えるプディングの声。
「海賊に・・・?どういうことだ、プディング。」
ガナッシュが訊く。
「シャーベットっていう、女海賊が・・・陸に上がって街を占拠して好き勝手やってるって
オレは聞いた・・・。ヨーグル島に行くにもこれじゃ船も出せないんだ・・・。」
「何だって?そんなことになってんのかよ!
そんなの、黙ってられないぜ。その海賊団、俺達で片付けないとな。」
珍しくアールグレイも怒りの様子を見せる。
「私達、こうして見ると、なかなかの精鋭部隊じゃなくて?
海賊が陸に上がったなんて何なのかしら。ちゃっちゃとやっつけましょ!」
ミントまで息巻いて。
「仕事がどんどん増えますねえ。」
「何か面倒事に巻き込まれたわねえ・・・。」
プレッツエルとカルボナーラは呑気だったが。
「見てやがれ、海賊の奴ら。絶対許さねェからな!」
何だか話がそれたように、海賊退治が始まろうとしていた・・・・・。





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