第5話 「パエリア注意報。いや、変態注意報。好きだと告げて苦しめるのは何故?」


魔界への入り口を目指す、アールグレイやガナッシュ達一行。
今、その一行の中には、何とも言えない妙な空気が漂っている。
一番複雑そうなのは、ガナッシュ。
きょろきょろして、ぽりぽりと指で頬を掻いている、ビミョーな顔をしているアールグレイ。
「ガナッシュ、俺、さぁ・・・。」
「なん、だ・・・?」
「いや、やっぱりそうだったんだなあって・・・。」
「やっぱり・・・か。いつからそう思ってた?」
「お前が、その・・・女だって知った辺りから・・・。」
「そう、か・・。すまなかったな、隠していて。」
「いいや・・・それなりに理由あんだろ?」
「まあ・・・大したことはないんだけど・・・今度、ちゃんと話すよ。」
「そっか。うん。待ってるな。」
「ああ・・・本当に大したことはないんだ。ただ・・・言いにくかっただけで。」
「うん。お前が話したいときに、話してくれたら、それでいい。」
「アールグレイ・・・。」
アールグレイとガナッシュは、その時、二人だけの世界の様な空気を作っていた。
それに割って入ったのは、パエリアだった。
「ちょっとぉ、なに二人で秘密めいた話してラヴってんのよぉ。
ははーん、さてはカレ、ショコラの彼なわけ??っていうか、何でアンタ騎士様みたいな風体なのよ。」
「騎士なんだが、一応。大体パエリアこそ、どうして盗賊なんてやっているんだよ!
お前は一大スターだった筈だろ!?どうして盗賊なんて・・・・・」
うっ・・・、とばかりに一瞬身を引くパエリアだったが。
「うーるっさいわねえ、どうせあの劇場はねえ、成人女子はお払い箱にするロリコン一座なのよ!
あたしはあんたより年上だし!19でお払い箱になったわよ、あのロリコンババァ、
ああ、腹立つ。引退も金儲けのひとつのイベントにされちゃったわ!
あー、世知辛すぎて涙が出ちゃうわよ!
あんたが16で突然やめちゃって、その後あの一座がどーれだけ苦労したことか!
まあ、あんなとこだし、あんたアイドルってガラじゃないのもよく知ってるけど・・・はぁはぁ。」
ぶっちぎれた様にまくし立てるパエリア。
「・・・た、大変だったみたいだな・・・。なんとなく想像つくけど・・・。
お、落ち着いたか??水飲む?」
そう言って自分の水筒を差し出すガナッシュ。
「ありがと・・・。くぴくぴ。
あー、すっきりした。もうねえ、やってらんないとはこのことなのよー、解る?」
「よくわかる。けど、それまでの稼ぎはどうしたんだよ。盗賊にまで身を落とすなんて。」
「う・・・。あはは・・・カジノで全部・・・」
「な・・・。バカかお前は!」
「どうせバカよぉー。あのときはもう、腹立っててキレてて、スカッとしたくて、
引退の退職金も含めて倍の倍にくらいしてやろうって・・・。
バカだったわ、ええ、バカでした・・・。ごめんなさい。私がバカでした。
歌って踊る以外芸のないあたし、ちょっと試しに盗賊の真似事したら・・・
・・・・・こーれが以外とイケるわけよははは!」
ミントも真っ青なリアクション付き百面相で、最後には笑い出すパエリア。
「なにその呆れたような顔。」
「呆れてるんだよ・・・。」
「なによもうー。・・・いいのよ、盗賊家業もけっこう面白いのよ?
でも、あんたが騎士とはねー。彼氏までいるし。あたしだってまだシングルなのに。」
「べっ別にそういうのではな・・・」
「照れるなー。さっきのあのイイ雰囲気はなんだったわけ〜??」
それまで、ノリは完全にパエリアのものだった。
それをプレッツエルが止めた。
「あのーもしもし。お取り込み中申し訳ありませんが・・・。なにがどうしたんですか、
聞いてたらなんとなく分かりはしますけど。」
「あ、すまないすまない。ちょっと昔の仲間と偶然会っただけだから。」
適当に流そうとするガナッシュ。
「ね、ねえねえ、ガナッシュって、かのアイドルミュージカルスターのショコラちゃんだったのね!
女の人だったなんて・・・私は女顔の男性なのかとばかり・・・。
失礼なこといっぱい言っちゃったんじゃないかしら??ごめんなさいね?」
ミントが、何故か瞳を輝かせながら非礼をわびていた。
「い、いえ・・・隠していたのは私ですから・・・。」
「そう?でも、よかったわね!アールグレイの恋も昔の思い出に終わらなかったのよ!
ああ、なんてドラマチックなのかしら!私こういうお話大好きよvvv」
乙女の瞳は、輝いていた。
「あのな、大体の話はわかったけど、ここでひとりで浮いてる魔族のこと、
お前達忘れているだろう!」
魔族の少年ブレッドを指差しながら、キレ気味のカフェラーテは言った。
「ああ、そうだよ、うっかりパエリアに流された。で、・・・ちょっと待て、何がどういう話だった・・・?」
冷や汗を流しながら、頭をおさえるガナッシュ。
「あの、僕、話していいですか?」
ブレッドが、控えめ〜に口を開く。
「ああ、説明してくれるか。」
ガナッシュが、もとの騎士の顔に戻して言った。
「アタシも聞きたいわね、ブレッド。あのバケットの馬鹿は、何を考えてるのか。」
後ろで黙っていたカルボナーラが、珍しくシリアスな顔でそう言った。
「カルボナーラ姉様・・・。はい。お話しします。
バケット様は、世界を手に入れるおつもりの様です。」
「はぁ?!」
突然表情が崩れるカルボナーラ。
「何考えてんのよあの馬鹿女。そんなにアタシに嫌われたのが腹にすねかえてるのかしら。
わけわかんないわ。どういうことよ。」
「はい・・・。どうも、あのですね、お姉様、おっしゃいましたでしょう。
−アタシに好かれたかったら、人間界ひとつくらい、プレゼントしなさいな−と・・・。」
「え、そんなこと言った?」
「言いました!だからバケット様は・・・。
そう、違います!問題はそこじゃないんです!!」
首をぶんぶんと振りながら、本題はこれじゃない、と言いたげに、ブレッドは話を続ける。
「バケット様は、精霊5柱神の、ミーソ様なのです!
ミーソ様といえば、5柱神でも最も魔力の高い方。アプリコット姫がどれだけ強くても、
今のままでは到底かないません。」
「ちょちょちょ、ちょっと待ちなさいよ、バケットが精霊神ミーソですって?」
ギョロ目で驚いているのは、カルボナーラだけではない。
「お姉様は、ミーソ神に捕まっているの?!」
「よくわからないけど、それじゃアプリコットが敵うはずないじゃないか!」
ミントとカフェラーテも、驚きは隠せず、それぞれらしい反応をする。
「で、何だってあの、そのミーソ神がアタシに言い寄って来るわけよ。
ブレッド知ってる?精霊神が何だってまた魔界王の妻になんてなったわけよ。
わけわかんない。精霊神は性別無いって話だし・・・。
あの変人わけわかんないのよ。」
普段の調子に戻って、カルボナーラはつらつらと自分的感想を連ねる。
「ですから、・・・・・その、言いにくいのですが、
・・・あの、バケット様は、カルボナーラお姉様に近付くために、兄上に近付いたのです。
そうしたら、兄上がバケット様のお美しさに惹かれ、ですから・・・
つまり、兄上は利用されているという・・・その・・・」
顔を赤くしながら、しどろもどろに、なにやらおかしな魔界の事情を話すブレッド。
「は。なーーーーにそれ!信じらんないわ!
だからあの企み顔の変な義姉はキライなのよ!
お兄様の妻っていう立場を利用して、アタシの側に近付くことに利用して・・・
なーにそれ!ホント信じられないわよ!!」
すっかりキレてしまっているカルボナーラ。
「何か、とんでもない痴情が語られてるような・・・。」
プレッツエルはぽつりと零すように言う。
「魔界王宮クラスのな。」
あんまりな話に逆に冷静になっているガナッシュが付け加える。
「あのさあ、そもそも、何でそんなにカルボナーラさんは、ミーソ神にそんなに好かれてんの?」
脳天気な声で、ある意味核心をついたかのような質問をするアールグレイ。
「知らないわよ!・・・出会ったのは子供のころでね、あの子、自分を男の子だと信じてたし、
アタシに可愛いってことあるごとに言ってたし、ああ、全く馬鹿らしいわ。
ミーソだか何だか知らないけど、あんなのに好かれたって迷惑よ!
あの子周りの女の子に人気あったのよ。だからアタシ、友達出来なかったわ。
王妹という立場がまた、アタシから可愛い女の子友達を放したわ・・・。
アタシがバケットのせいで、どれだけ寂しかったか解る?」
過去の寂しい話を突然話すカルボナーラ。その目には涙が。
「可愛い女の子ってところがなければ、可哀想な話なんですけどねえ。」
飄々と片付けてしまうプレッツエル。
「要は変態魔界人達の痴情なんだな。ちょっと怖いですね。」
ロゼが口を開いた。
「あんたが言うなよ。」
アールグレイ、ツッコミ。
「・・・・・でも、そういえば、ガナッシュ殿は女性だったではないですか。」
「話戻すなよ。」
「あ、すいません。」
それはともかく。
「ブレッド君、それで、もっと詳しく聞かせてくれないか。
人間界やアプリコット姫様が危ないのには、変わりないんだ。」
ひとりまともそうに、ガナッシュは聞く。
「はい。まだ申し上げていないことがあります。
アプリコット姫は、2柱神ソルトなのです。」
「ええ!?お、お姉様が!?精霊神ソルト様???」
相変わらずオーバーリアクション付きで驚くミント。
「はい。そして、ミント姫、貴女は、1柱神シュガーなのです。」
「!!!!?????」
あまりに予想もしないとんでもないことを告げられて、ミントは今までで一番、
表現仕様のないくらいの驚きのリアクションをした。
「ミント様が、シュガー神!?アプリコット様は、ソルト神・・・。」
やっぱりひとりまともそうに、ガナッシュは静かに驚く。



一方こちらは、ラズベリー王子と騎士プディング。
「ねえ、プリンちゃん、今日の宿はどうするんだい?楽しみだね、二人だけの一夜だよ・・・
ふふふふふ。」
「あんまりくっつくんじゃねェよ、この変態王子が。
俺はテメエが寝てる部屋の隣から、不寝番でもして、しーっかり護衛の使命を
果たしてやっから心配すんな。ばぁか。
誰がテメーの毒牙になんぞかかるかボケ。」
プディングは、得意の毒舌で応戦。
彼は、ガナッシュと並び「女顔の綺麗で可愛い人気騎士」であるが、
騎士団中一番の口の悪さを誇っているのだ。
「あーいかわらかず減らない口だね。まあ、それだけ僕に気を許してくれてるって
僕はとっているよ・・・。可愛いプディングv」
この二人のこういう会話は、いつものことらしい。
「くっつくんじゃねぇっつってんだろ!!!切るぞボケ!誰がテメエに気を許してるって?
テメーは俺が知る限り、世の中で一番気を許しちゃぁいけねェ男だぜ!
命令だからしっかたなぁ〜〜〜く付き合ってやってんだ、有り難く思え!オラ!」
可愛らしい顔におよそ似合わない、口の悪さを披露するプディング。
王子に対する礼儀など、ほっぽられている。
「付き合ってくれてるんだv僕達はシチュードバーグ王国公認の仲ってことだね!
嬉しいよ・・・そんなことを君の口から聞けるなんて・・・・・。」
そう言いながら、プディングの肩へ手を回す。
すかさず、プディングは突き飛ばした上に蹴りを入れる。
「言葉を都合良く勝手にとるんじゃーねえよ。ド変態!」
「プリンちゃんのいけず・・・。」
「いじけてんじゃねぇ。オラ、俺達は大事な御用があるだろーが!
急ぐぞ!あんまり絡むと置いてくからな!
いいか、今から、俺に3メートル以上近くに寄るな!1センチでも入ってきたら切るぜ!
いいなボケが!!!」
いくらなんでも王子様に向かってそれはあんまりでしょうという言葉を、平気で吐くプディング。
「君との距離は、3メートルv縮めて見せようホトトギス。」
「アホ。」
これだと、魔界の痴情を聞いている面々と対面できるのは、いつのことやら・・・。


つづく。

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はい、あとがきです。
今回はわけわかりませんね。ぶっ壊れ気味です。
変態ばっかりですいません。でもまともなのもいる・・・はずです。
ギャグですから。ギャグ。
今回はノリがフッ飛んでいて私はなかなか好きです。


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