第20話「黒翼の狂気・お前の背は俺が護る」


静かに進軍し、横から奇襲。
少数精鋭、やる気は十分。
対する反シャーベットの賊どもは、それを知らぬ訳ではなかった。
名も明かさぬ妖術師がひとりいた。
バジルではない。
だが、そやつは言う。シャーベットが騎士団を連れて仕返しに来るぞ。
騎士達は若いが手練れ、剣士と魔道士と妖術師がいるぞ。
我はかのバジル様の下部である。
言葉を信じぬと、横から攻め込まれて死ぬぞ、と。
妖術師の言うことは当たると、妖術師の言うことが無ければ、こうしてはいなかったんだと、賊どもは武器を持って奇襲に備えられた。
投獄状態だった喧嘩屋二人も、右腕を盾に取られたふりをして、とりあえず大人しく従うことにした。
「その中に居るのかな、あのじゃじゃ馬は。」
グラニューは小声で、フレークに向かってさも楽しそうにそう言った。
「さあな、居たらいいけどな。俺は魔道士みたいに、魔力感じて察知したりなんて出来る由もないけど、もし出来るもんなら、やってみたいもんさ。」
フレークはそう言う。顔は真面目だ。
「あいつに魔力なんてねェよ。
居たらどうする。」
更に声をひそめつつ、その声は楽しげに艶めいている。
「居たら、どうするんだ?」
そう返す。
「決まってるじゃないか。」
「そうかい。」
あくまで主語を抜いたまま、寝返る相談をそれだけで済ませた。
左手にバスタード・ソードを持つ大男と、何も持たずに悠然と立つ妖精花法士。
いつでも迎え撃てると、賊どもは構えていた。
奇襲はそれでも突然だった。
突然痺れを感じたまま、動けずに倒れる者数名。
驚く者達を斬り崩す。
完全に奇襲は成功だ。
力は圧倒的だった。
アールグレイの剣技は、グリンティに鬼のように仕込まれた鬼気さながらの本物だ。
死にはしないが、一撃で動けなくなる。
その後ろに、聞き取れないほどの早口で精霊の御名を唱えるガナッシュが居た。
一度やった3属性同時は、確実のものとなっていた。
かすめるように一気に大人数が、炎に焼かれ、切り刻まれ、足下をとられる。
・・・やれ、アールグレイ。お前の背後は俺が守る。
そう背中に呟いた。
にっと笑うアールグレイは、久しぶりに「手加減しつつ本気」を実行することにした。
そういう器用な真似は、案外苦手だ。
いっそ息の根を一瞬で止めろと言われた方が楽だ。
だが、今日は器用なことを要求されているから。
後ろを気にしなくていいのは、大変有り難いことだ。
そこに相棒ガナッシュが居るなら、何の心配も無い。
俺より後ろには行かせないから。
後ろに最高の補佐が居るんだ、それを守るのは俺だ。
周りには、短い間で勝ち取ったチームワークも存在する。
プディングはとにかく速かった。
力が無くても、速さがあることは、この条件ではとてもいい。
致命傷にならない分、確実性のある剣戟を神速で浴びせるわけだから。
側に頼れる者が居ることがこんなに楽なものだとは思っていなかったプディングだった。
初めて、物理的な剣の無い魔道剣を見た。
大抵の魔道剣士は、それ用の剣を用いた上で魔道剣を使うが、ラズベリーの魔道剣は真性の魔道剣だ。
その剣は氷の魔法で出来ている。
斬りつけただけで凍傷になる代物。
おまけに速い。力もそれなりに持ちあわせる。
斬られれば、傷口が凍り、為す術もなく固まるしかない。
実際に戦うこの男を初めて見た。
「こいつ・・・オレの速さについてきやがる・・・!」
驚くが、それはここにおいて嬉しいことだった。
やるんじゃねえか。出し惜しみしやがって。
プディングは妙な楽しさを覚えた。
いつもひとりで先陣を走ってきた。
付いてこれる奴なんて、知っているならアールグレイくらいだった。
速さだけならガナッシュもなかなかだが、技量は足りないし、先陣を切り込むのはいつも自分だけだった。
周りについてこられる相棒なんて居なかった。
アールグレイとガナッシュは羨ましい存在だ。
たった18で斬り込み隊長なんてやらされていたから、ひとりで戦うのが癖になっている。
大体魔物退治で、斬り込み隊長より後ろは必要ないくらいだ。
この最年少の少年騎士は、畏怖される。
時々訳も解らず震えることがある。
何でオレはこんなことをしているんだろう。
・・・恐くない。恐いと思ったらオレの負けだ。
オレは滅多に負ける事なんて無い。
明日も仕事だ・・・。ひとりで先陣切るのは、馴れたはずだろ。
そんなことをひとりで抱えた少女は、隣にせめて、誰か居てくれたらと思うことを必死に打ち消してきた。
それを忘れるくらい、今は隙間も無いくらい。
ラズベリーは、至って自然にプディングを支えるように側にいて戦っていた。
孤独と恐怖を知っているように。
知るとは言わずとも解っていたから。
存分にやっていいよ。俺が居る限りは、君に掠り傷ひとつつけさせない。
「根っからの戦士だな。恐いものが無くなると、楽しいんだ。」
言うことと心に思うことは別で。
存分にやっているのは、弟も一緒で。
一見幼げで穏やかそうなカフェラーテだが、これもまた、根っからの戦士であるらしく。
剣を握ると別人だった。
華奢そうだが鍛えられている。
例えは的確ではないが、カリーの将軍達も、敵う者があまり居ないくらいだ。
ひときわ冷静であるから、その点アールグレイより優秀と言える。
冷静に周囲を見つめる剣豪の王子は、ただ、相棒という者は居なかった。
アプリコットのお供状態で、とんでもない場所に赴いたことはある。
あの馬鹿女は、守る必要がない。
でも、いつでも、僕は護るつもりで側に居た。
魔道の道では、どんなに頑張ろうとも敵うまいが、こうして剣を持っていたならお前を少しでも振り向かせられるのか。
「へえ、やるじゃねぇか、カフェ。」
そんな声が聞きたかった。
そもそも考えることが間違っているが、ここにお前が居て、僕がこうしていたなら、あのアールグレイとガナッシュの様に、並んで共に護りあうことが叶うか。
戦士として生きるなら、そんな相手が居てもいいと、あの二人は思わせる。
いつかは共に生きることになると決められてはいる。
だが、一度くらい、並んでみたいと思う。
アプリコットが唯一甘えてみせるのが、ただ一人カフェラーテだ。
それをカフェラーテは知らなかった。
遙か先ばかり見る、婚約者の同い年は、可愛い顔に似合わず剛胆で、
もしかしたら僕が女でお前が男だったら丁度いいのか。
そんなことすら思ったことがあった。
人がちょっと初心だと思って、妙にからかうと思えば、
指一本触れさせない様な高貴さを感じ、意気地のない男だと自分で思った。
あの女を自分の妻にするだけの度量が、僕には無いじゃないか。
欲しくない訳じゃない。それ以上に欲されてみたいと思う様にすらなる。
あいつは僕を何だと思っているんだ。
答えが出ない自問自答。聞くだけの意気地も無いのに。
甘えられても解らない。
どれだけ心を開かれているか解っていない。
言葉に出さない意地っ張り同士。
顔を見れば、どうしてあんなに心と裏腹な事ばかり僕は言うんだろう。
あいつは一度くらい、僕に素直なことを言ってきたことがあったろうか。
いつだってアプリコットは率直だ。
あまりに直球過ぎて、受け取れないくらいの真摯さすらあるのに、素直に受け取れないのは、僕が悪いんだ。
今度、顔を合わせる時は、真っ直ぐに何か言えるか。
そんなことを、今周りに居る奴らが思わせる。
大切な人を護りたいと思う心を、持て余すのはもう一人居る。
後方で剣を持つ美貌の博士の側に居られない。
青い色の槍は、思いの外扱いやすい。
確かに属性は水らしく、見る者が見れば、水の精霊の加護が見える。
持つべき者が振るって初めて、だが。
槍術においては、ここにプレッツエルを勝る者は居ない。
背よりも長いそれを、いとも軽く、安く、見事に操った。
もともと騎兵戦術を学んでいたくらいだ。
歳はふたつ違えど、アールグレイとは幼馴染みだ。
共に貴族の息子ながら、それらしくないところが気が合うのか。
昔からやんちゃで、すぐに街中に飛び出しては怒られていたアールグレイとたしなめるどころか抜け出す手伝いすらしていた、秀才と言われた一見気の優しいおっとりとした少年。
それの中には、顔には出さない熱情があった。
ずっと見ていた。
それは、とても美しい人だった。
年頃は同じくらいだと思う。
姿は少年だが、かの人は女の子だ。
下級貴族の自分とは、世界がちょっと・・・少し上に居る人だ。
名も知らず、ただずっと・・・見つめていた。
文献を手にしていることが多くて、いつも周りに令嬢が居る。
あの人は、どんな人なのだろう。
何も解らないし、側に寄ることもなく、近寄ってはいけないと思った。
数年、ただ見つめ続けて、恋なんて切ないだけなものだなあと、いつか忘れなくてはいけないものかと、そう思っていたというのに・・・・・。
一度、親に連れられて出席した、馴れない舞踏会の席。
プレッツエルは、ぼーっとしてさえいなければ、女性の視線を浴びるタイプだ。
でも、自分は目がいかない。
あの人のことしか、無かった。
その人は、ドレスなんて着てはいなかった。
でも、その場の誰よりも美しかった。
巧みな言葉で、姫君達を酔わせていた。
・・・あれ?
しばらく見かけなかったのに、貴女なんですか。
この人は、女の子じゃなかったのだろうか。
自分よりずっと、貴公子振りが板に付いていて、それでもどうしてだろう、そこの姫君の誰一人として、その美しさに敵うと思える人は居ない。
プレッツエルは天然である。
その時の彼は、もうその時を逃さなかった。
女性に声をかけろと言われたら、正直困るが、その場に疲れた同志に声をかけるなら、至って気楽なものだろうと踏んだ。
実際のその人は、あれだけいいだけ甘く囁いておいて、いかにも疲れたと、女の子の相手なんて、全く疲れますと言わんばかりの顔で庭に出ていたのだ。
ここは、気楽に誰にでも話しかけられる幼馴染みを見習ってみよう。
「あの、あなたは・・・」
「はい?」
あっけない。
なんて簡単に返ってきたんだろう。
しかも、話を続けるのは自分じゃなかった。
「あ・・・ええと、君は先ほどからずっと見ていましたね。」
「え!?・・・ええまあ・・・。」
「声をかけるなら、相手が間違っているんじゃありませんか。」
「いえ・・・貴女でいいんですよ。」
「私に声をかけてどうなさいますか。それとも、口説き方が知りたいとでも。」
「いいえ、・・・お聞きしたいことは他にあります。」
「・・・何でしょう。」
「失礼ですが、貴女はどうして女性であるのにその様な姿でここにいらっしゃるのか、とても気になっていて・・・。」
そこまで言われたその人は、言われたことが無かったことに対して、滑らかな口が動かなかった。
「あ・・・す、すいません、ごめんなさい・・・。お気に障ったなら本当に・・・」
そう言われて、その人はひとつため息を零してから、実に複雑な顔で答えた。
「・・・どうして私が女性とお解りになりますか。」
「・・・貴女ほどお美しい方は他に居られません。」
いともあっさりと、そう言った。
さっきまで困りながら話していた者とは思えない程、見事な程にはっきりと。
「・・・・・そんなことを言われたのは、初めてです・・・。
その言葉を他の方に言って差し上げたなら、誰でもお喜びになりますよ。」
明らかに戸惑っていた。
「いえ、僕はそう、軽々しくそういうことは言えないんですが・・・。」
「今言ったではありませんか。私が軽々しく言っていると言いたいのですか。」
今度は怒ったような顔をする。
あ・・・。
この人は、可愛い人なんだ。
プレッツエルはどこまでも天然だった。
「いいえ。見習った方がいいんでしょうか。」
「ぷっ・・・。面白い方ですね。
あなたは、私のようなうわべを並べるには、少し正直すぎるのではありませんか。」
・・・笑うとなんて綺麗なんだろう・・・。
もう、夢中だった。
「正直ですか?では、そのついでに、失礼でなければお名前をお聞きしたいです。」
「・・・ご自分から名乗らないのは、失礼とはお思いになりませんか。」
「あ、そうでした。僕はプレッツエルと申します。」
「・・・ロゼです。」
ロゼさん・・・。
見つめ続けて、思い続けて、何年経ったろう。
目の前に、その人は居て、こうして話をして、名を知った。
その時にはもう、プレッツエルの心は決まっていた。
たとえこの人が、道ならない趣味であろうと、ここで引き下がるのは嫌だった。
普段呑気そうなプレッツエルの、妙な男らしさではある。
「貴女に一目惚れしたと言ったら、お嫌ですか、ロゼさん。」
ロゼの顔が、やけに染まった。
今まで、長子として育てられ、出来る限り女性の相手をし、騙くらかしてきたのに。
その時のロゼとプレッツエルは、共に15歳で、彼はそろそろ凛々しく、彼女はいい加減騙しがたくなっていた。
それでも、面と向かって言われたのは初めてだ。
それはそういう意味か。
この人は私を女性として見て言っているのですか。
答えられない。
わからない。
逃げることしか考えられない。
自分が言うなら、もっと綺麗に並べ立てるだろう。
このプレッツエル君という人は、優しい人だ。
それは解る。余程のフェミニストか、紳士と言っていいだろう。
そんな扱いを受けたことがない。
何て言ったら、彼を傷つけずに逃れられる。
「・・・困らせるつもりは無かったんですけど・・・。
いいです、お返事は今はお聞きしません。
そう思っている僕が居ることだけ、覚えてくだされば、嬉しいです。」
ロゼよりも余程フェミニストか、紳士振りだった。
「失礼します・・・。」
そう言って去ることしか出来なかった。
それからは、しばらくは会うこともなく、ロゼは博士としての称号を得、プレッツエルは幼馴染みと共に、突然姫様の貢献付きで騎士になった。
アールグレイは言うのだ。
鬼みたいな女顔の相棒が出来たと。
魔法が物凄くて、剣は基本は出来てるのに後は何か自己流過ぎて型が外れてて、でも案外いい奴だったから、何か楽しくなりそうだと。
恐いけど優しいのが解ったからと、照れたように言う。
ショコラちゃんにちょっと似てる気がしたのに、目が据わってて似てないっての。
あんな顔した男がいるなんて詐欺だぜ、と。
そんな話を聞いていたら、関係ない気がするのに、心に浮かぶのはロゼだ。
あの人は今どうしているのだろう。
面と向かって告白したのなんて、後にも先にもあれだけなのに、やはり忘れなくてはいけない人なのかと思っていた。
幻の人だったのか。
それが、就任して配属された、シチュードバーグ王国直属魔法研究所で、見事なまでにばったりと出会したのである。
驚いた。
ロゼ・ボジョレーヌーヴォー博士。
魔道学博士最年少。
歳は自分と同い年。
偽りから外れて性別は女性。
既に研究所にて名をはせかかっている。
自分はただの守備の一介の騎士。
でも、同じ場で働く身となった。
あの時の様に、困らせることなく、今は守らせて頂きます。
忠誠にも似た、密かな誓いをひとり立て、何もなく今に至る。
今、付かず離れず、今も側にいる。
一度配属を王城に、一応昇格したときは最高に残念だった。
でもそのお陰で今は側にいられる。
刺激しなければ、至って普通に接して貰える。
でも、誰にも渡す気は絶対にない。
今、護りたい人と護り会う者、陰から護る者、そんな中にいて、
ロゼの側に居られないのが残念で仕方ない。
だが、ここで前線でやらなければ。
ロゼの策なのだから。
自分をそう、実力を見てくれてのことなのだ。
「ならば、僕はそれにお答えしますよ。ここに居られる最上の感謝として。」
ロゼから見れば、プレッツエルは変わった男だ。
何が良くて、偽りだらけの人生を送った女を、そこまで思うのか。
表面を繕うのは得意だが、彼には負けてしまう。
彼のペースに填ったなら、あの時のように、どうしていいかわからなくなりそうだ。
だから、ロゼは新たな表面上の顔を作ったのだ。
飄々とした、とぼけた、ある意味原因の男に似ている顔を。
そうしていれば、逃れられる。
彼をどう思うのか、自分ではわからない。
あれ以来、男性の視線が気になるようになった。
意外と見られていることがわかった。
どうしろという。
ここまで追いつめておいて、彼は突然昇格、王宮勤めになって去っていった。
どうしてそれが、そんなに寂しいのか、わからないまま、
今となってはやけに近くにいるものだ。
本人は解っていない。苦手なのだ、男というものが。
伊達に男扱いで育てられ、その感覚で生き、突然女の子視されたら、どうしていいのかまるでわからないから。
私とあなた達と、どう違うと言いますか。
明らかに違うことが、本人にはわからない。
頭はいいが、物凄く初心なロゼは、うわべの恋の歌は得意でも、本物はとんと苦手で。
ある意味魔法には、恋していたのかも知れないが。
恋の病に効く魔法なんて無い。
それ自体が既に魔法だった。
物覚えも回転も速い頭脳が、唯一解さないらしい魔法だった。


アールグレイが剣を振るうその最中、上空に黒い影が舞った。
空なんて誰も見ていない時。
その影は、血を求めた。
黒い翼、黄色といっていいだろう、その瞳。
黒い髪をしている小柄な影。
それが、突然奇声を上げて、勢いよく降ってきた。
余程勘が鋭くなければ、頭からその刃を受けていただろう。
その場の何者も、何かと、それは何かと疑った。
降ってきた様に舞い降りたそれは、黒い翼をした人の姿で、正に血を求めて乱暴に見える刃を振り回した。
アールグレイが剣に長けているから受けられるのだ。
その手には、大陸には無い型の刃を持つ。
霞ヶ国という、東の島国にしかない刃だ。
剣よりも鋭く、切れ味のいい片刃のそれは、黒翼の主の意のままに振るわされているようで、ガルダーヴァをいちいち殴りつけた。
聖剣でなければ、刃こぼれしているだろう。
「何だお前!?くっ・・・ちくしょうっ・・・なんだこいつ!!」
奇声を上げながら斬りつけるそれを全て受け流すが、宙を飛ぶ相手が斬りつけてくる等ということは初めてだ。
「アールグレイ!!」
ガナッシュは、突然現れたわからないものに魔法を浴びせようとするが、このままでは下手すればアールグレイに当たってしまう。
海賊どもは何が何だか解らずに、動きを止める。
味方も何が何だか解らない。
「魔神族・・・同胞なのか・・・?」
ガーリックがそう、零した。
「魔神族・・・?そんな、古の一族・・・?
あれが・・・?あなたが・・・・・?」
ブレッドが漏らすように言う。
「アハハハハハハ!
このグラノーラ、何よりもオマエみたいなのが好きサ!!!
強い奴は殺りがいがある!!!
ここには血の臭いが半端に立ちこめてる!
もっと流すがいいサ!!!」
魔神族、グラノーラ。
刀を持つ、堕天使。
黒翼の狂気は、そのまま文字を変えて凶器だ。
「あれは何だ。」
「知らん。」
「どうする。」
「お前なら止められるか?」
「どうだろうな、飛ぶ刀は相手にしたことがない。」
「右腕がそんなじゃ、死ぬだけか。」
「まあ、そうだな。あれは、本気で殺したがって振るう剣だ。
嫌な意味で迷いがねえ。
あの男が相当な使い手だから相手になってるんだ。
・・・なんだありゃ。」
グラニューとフレークは、あまりに予想外の乱入者を見て、妙に呑気な会話を交わした。
プディングの姿は確認して、さてどう出るかな、というときに。
「何だよお前は!!!ちぃっ・・・速くて防ぐだけで精一杯だ・・・。
ハァ、ハァ・・・こんの野郎っ・・・・・!!!」
そう言いながら、アールグレイは初めて相手に一撃食らわせる。
グラノーラは嬉しそうににやりと笑う。
「そうじゃないとつまらないサ・・・!!!」
刀が乱れ狂う。
「アールグレイ頭下げろ!!」
ガナッシュの声に、アールグレイは咄嗟に頭を下げる。
風と炎が不意打ちを食らわせた。
「邪魔!!!」
グラノーラの刃がガナッシュに向く。
アールグレイはそれを防ぐ。
ガナッシュの腕では、敵わない。
「それだけはさせねェ・・・!!!!!」
「ハハハハハ!オマエの剣は迷ってる!殺す気で来るといい!!!
他にもいるか!?これよりイイ剣はいるか?!
何人でも来たらイイ・・・全部殺ってやるよ・・・アハハハハハハ!!!」
黒い狂気は、勢いを増して襲いかかる。
ガーリックは唇を噛んだ。
あれは、魔族と言ってもただの魔族ではない。
魔王と呼ばれた者が居た一族、魔神族。
純粋な魔神族は、翼を持った。
ガーリックは意を決して、古の魔の言語を口にした。
ガーリックの背には、黒翼があった。
「貴様、一族の血に背く恥さらしめ、魔剣の使い方を違っておる。
私が相手だ、グラノーラとやら!
魔神族が族長の娘の血の方が美味いのではないか!」
ガーリックは黒い剣をグラノーラに向ける。
「同族が居たって・・・?ハハハハハ、長の娘か、そいつは美味そうだ!!!」
一同、空で始まった魔剣の戦いを見た。
何が何だか解せない。
「魔神族って何だよ・・・?何が起きてんだよ・・・。」
プディングは不安を隠せない顔で言う。
「あの人が引き付けている間に、俺達は行くぞ。
目的を忘れるな。」
そう言うラズベリーの顔は、プディングが見たこともない、言うなれば本気の顔。
「その通りです・・・。行きましょう。」
汗を流しながら、ロゼは重く息を吐くように言う。
グラノーラの刃は、注意は、今ガーリックに注がれている。
船まで行くんだ。
「やることはひとつだ、船まで連れて行くぜ。
船が何処に隠してあるか、調べてあるんだろうな?」
グラニューはフレークに言う。
「ああ、この先の岸に着けてあった。俺等を信じるかな。」
「それどころじゃないさ。」
「まあな。」
ここにいる者の誰しもが、予想もしない展開だった。
海賊達は抗うだけは来るも、そこにいる者達に敵いはしない。
考える余裕もなく、二人に案内されるまま船に乗り込む。
空では、黒い翼が剣戟を繰り広げたまま。
ただ、名も明かさぬ妖術師は、笑みを浮かべていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20回記念で長めにお送りしました。
セリフが物凄く少ないですね。そうでもないか。
霞ヶ国って、食べ物じゃないと思うでしょうが、霞は仙人の食べ物ですから。
散々引っ張ったロゼの中身はこれです。
グラノーラはいきなり出てきてなんだお前はって感じか・・・。
やけに恋愛話で続くかと思ったら、こんな恐いの。
ガーリックも引っ張ったなあ。

06 6/29

続き・間奏曲1へ

戻る