間奏曲1〜Anyway〜
ああ、俺はどうして王族なんてものに生まれてきたんだろうな。
気ままに歩いていたい性分なのに、わざわざ王家の長子なんていう、一番似合わない職種に生まれてきた。
世の偉大なる神の言葉を解く人達が言うには、人は誰しも自分で生まれを決めて
全てわかった上でそこへ生まれ落ちるのだという。
父も母も、自分自身も、決めたのは自分自身、だそうだ。
俺は自分で王族に生まれたことになるんだけど。
わざわざ面倒なことをするよな、俺は。
自分に口答えするなら、平民の生まれでよかったし、七面倒くさいカリーよりも
自由なシチュードバーグにでも生まれたかったものだ。
何でまた、わざわざその七面倒くさい所の王太子なんかに生まれる気になったのやら。
偶然は必然で、生まれ進むその道は全てレールなのかい?
俺が決めたのかい?
まあいいけど。
嫌いじゃないけど、悟りを開くほどのものでもないからな、俺も。
「運命ってのは、受け容れるモンでも決まってるモンでもネェよ。
俺が自分で作って、切り開いて、掴み取る。
勝ち取るものだろ、なぁ。
そう思ってりゃーなァ、勝てる気がするんだよ。」
髪の長い、弟の婚約者がそう言っていた。
あの瞳は、真摯すぎてね、弟も受け止めるのが大変だ。
王者の貫禄ってところか。
同じ立場ではあるんだが、こうも違うかね。
俺は、解るけど、言われるまではそう思ってなかったさ。
勝てないね、言わないけどね。
迷いがない。あんな王女がいるシチュードバーグって国は、何て言うか・・・
自由だから、かな。
カリーは堅苦しい決まり事が多すぎるから。
いつの間にか、面倒事を避ける性格に出来上がってた。
逃げたかったさ、そんなしがらみ、絡みついて解けない、運命の糸から。
好きなように生きることに、憧れてそんなふりをする。
案外俺は滑稽で、逃れられない思いに振り回される。
逃げたいなんて気持ちも、本気じゃないのに。
国王になる、その道には光が見える気がする。
でも気性が反発する。
真面目なのと不真面目なのと、飛びたいのと歩きたいのと
憧れるのと現実を見てるおかしなリアリストのふりをする俺が。
馬鹿だと思えどまだ若く、周りに見せない迷いが多すぎた。
迷いながら進む子がいて、真っ直ぐ見据えてて、がんばりやで気が強くて。
まさか俺が、女に変えられるとは思わなんだ。
受け容れきれない真摯な光は強すぎたが、この可愛い子の光は柔らかくて心地良い。
まあ、強すぎる王女様は女だと思ってないけど。
ぶつかってきて、跳ね返してきて、必死に走っている姿は可愛くて。
迷いと弱さを隠して走る。
弱い自分なんてありはしないと信じて進む。
時々本当に疲れて泣いて、涙を隠して拭って歩き出す。
羨ましいほどの素直な生き方さ。
そんな素直さを、俺は生まれ落ちる前に置いてきたか。
惹かれるってことは、そうなりたいと思うのに似ていることがあるもので。
烏滸がましい恋心は、極めて独占的で。
「ばっか野郎!オレは男だぞ!騎士だぜ!?ちょっとちっちゃいと思って。
剣を抜けばテメエになんて負けねェんだよ!やるかこの野郎。
何笑ってやがんだ、むっかつく奴!」
言葉は雑でも、どうしてか可愛いとしか思えないんだから、重傷だ。
本当に男でも、道を外してもいいかと思いもした。
この子に並んでも烏滸がましくないように、少しは真ん中歩かないと。
すぐに外れたがるひねくれた気持ちを、真っ直ぐに正してくれる声が。
案外俺は馬鹿さ。一人の心が掴めない。
嫌がられるのを喜んでる性悪で。
解っているけどわざと言う言葉。
偽らないように、傷つけないように。
案外男なんて、見栄ばかり張りたがるものでね。
自分を大きく見せたいが故に、小さく縮まってる馬鹿だから。
傷つけたくないから、恐いのさ。
恐れなんて知らずに育って、何でもやれば簡単だと軽んじて、
才能をくれた血筋に感謝もせずに。
「兄上は何でも出来てしまうから・・・僕の気持ちなんてわからないんです。
王者たる者は器も大きく生まれるのでしょうか。
僕はあの馬鹿女と兄上に並べないまま、歳ばかり重ねては切ないままです。
魔道で並べないことは分かり切っているのに、それでもあとをついて歩きたい。
愚かですが、寂しがり屋なだけですが・・・いつまでも子供で・・・
あいつと並べるだけの男になるには、まだ僕は心の器が小さすぎます。」
照れ屋で素直なのに素直に言葉に出来ない弟は、時々切に零すことがある。
コンプレックスはどうにも出来ないままで、強すぎた相手の光が眩しすぎて、
相手がどんな風に自分を思うか見えてなくて。
弱さを強さに変えるやり方を知ってるから出来る甘えが、若すぎる少年には受け止めきれない。
客観的傍観はいいけど、俺はどうなんだか。
あれが強すぎるが故に、正面から勝負することを端からしないんだよ。
器用貧乏に成り下がらないように、密かに励むなんて、周りから見ればさぞらしくない。
どんな才華の持ち主だろうと、何もしなければ咲きも輝きもしない。
どれだけ努力しようと、天才の域を生まれ持つ者には敵わないのかなあとか、
すぐに楽な方向に逃げたがるものだろう、誰しも。
気持ち次第で何ほどにもなろうと、知るが解せないまま、一人で突っ立って、
自分が何を持っているか知りも解しもしないままの原石が如何ほどあるか。
語るは幾らでも出来ようさ。
王者になるために生まれ落ちて、隣にいて欲しい人が見つかって、
随分幸福な筈なのに、満たされないまま立っている。
あとは自分次第と解っている。
少し斜めに、横道に逸れてみたい性分は困りものだ。
面子は揃いも揃って真っ直ぐな奴ばかりだ、多少なりとも学べということか。
カリーの王子は素直さに欠けるみたいで、直線が照れる性分に生まれたらしい。
大分感化されたけど。
面白くなってきたよ。まあ、このまましばらく進んでみるさ。
迷わない人間なんておりませんよと、いたく澄んだ瞳の僧騎士が呟いてた。
迷う人間は意外と綺麗だと、最近思うんだよ。
この道、暗い世界に足を踏み入れようとしている道でも、
やけに輝いてる奴ばかり綺麗に揃って、浮かないようにしておかないと、
可愛い彼女に見捨てられては、流石に困る。
どうして男ってのは、女の子に弱くできてるんだろうね。
そうじゃないのもいるだろうが、俺は案外弱いよ。
一番好きな光が、一番の弱みになるとは、人生何が起きるか解らないものだ。
それでも。
俺は俺が歩きたいように歩きたくて
それでも、無くしたくないものなんて出来ちゃって
それでも、進む道はあくまで俺の道。
それでも・・・
奴らと共に歩いていることが、いつの間にか心地よくなってた。
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間奏曲1・ラズベリー。
彼も意外と迷いながら生きてる。
でも、自分のスタイルが好きで生きてる。
たまに見失いそうになるけれど、そうやってふらりと歩いて、関わったり離れてみたり。
なんだかんだ、そうやってるのが、結構・・・楽しい。
自分流に歩いてる量れない男も、段々この面子のノリが好きになってる。
感化されたり、力になってみようかなと思ったり。
06 8/20
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