そしてこちらは魔の塔。
「ったく、この塔はどうなってやがんだ。ほとんど迷路だな・・・。」
可愛いものの部屋から抜け出したアプリコットは、魔の塔の内部で脱出を試みるが、
魔法のかかった入り組んだ塔内に苦戦。
「ほーっほっほっほっ。アタシの城から、そう簡単に出られはしないわよ〜。
外見以外可愛くないお前なんぞ、アタシのペット達に食べられちゃえばいいのよ〜。」
どこからともなく、魔王の声が響く。
「へっ、魔物でも飼ってやがんのか?そんなもん、うちの国で唯一グラン・セージの称号を持つ
俺様の敵じゃないね。馬鹿魔王、さらった相手が悪かったな!」
アプリコットは姿を見せない相手に苛つきながら、挑発とも思える言葉を返す。
「ふんだ。それなら見せて貰おうじゃないのっ。」
そう声がしたと思うと、アプリコットがいる付近の壁が開き、数十匹という数の魔物が現れた。
「ふ〜ん・・・。
まあ、可哀想だけど、レベルアップの経験値にでもなってもらうか。」
そう言うと、アプリコットは短い呪文を詠唱する。
「レガル・ヴァフュ・リデ!」
冷気の嵐に、魔物達は動き出す間もなく包まれ消えていく。
「こんなもんで俺様を殺せると思うな。」
この荒々しい姫は、むしろ楽しんでいる様でさえある。
「・・・・・なんて女かしらっ!もうこうなったら、もっと怖〜い強〜いコ達出しちゃうからっ。」
「いくらでもこいよ。全部倒した頃には、ここを出られっかな?ははっ。」
「くぅぅ〜〜〜っ!!」
妙な戦いが塔内で起きていた・・・・・。

「はあ・・・何なんだこの森は。
一層不気味になってきたし、魔物はうろちょろしてるし・・・。
お陰で俺レベル上がっちゃったぜ。」
アールグレイは剣を軽く振り回しながら、ため息混じりにつぶやいた。
「まだ魔の塔は見えてこないわっ。早くたどり着かなくては、お姉さまが魔王に・・・
ああっいやいやいやっ。考えたくないわっ。
早く行かなくちゃ、行かなくちゃーっ。」
「・・・何想像したんですかミント様・・・・・・。そんなこと・・・いや・・・。」
暴走気味のミントに、冷や汗をかくアールグレイ。
「だってっお姉さまはあんなにもお美しいのよっ?
今頃沢山の魔王の手下を・・・
魅了してハーレムを作っているかもしれないわ!!
ああーいやいやいやっ。魔界の男だらけのハーレムなんて嫌っ。」
「どうしてそういう思考に至るのか不思議だなあ・・・。」
さっきの倍冷や汗をかくアールグレイ。
「・・・いや、アプリコット姫様のことですから、今頃魔王を倒してしまっているかも知れませんよ。」
ズレた会話を修正しようと、ガナッシュはそう言ったが、自分の発言もなんだかなあ・・・と冷や汗をかく。
「あ、あの黒く細い陰はもしかして!」
アールグレイが塔の姿を遠く森のさらに奥に捉える。
「まあ本当だわっ!!さあ早く早くなにしてるの早く!!!」
ミントは駆け足で二人を急かす。
その時だった。

ずがーーーーーんっ!!!

どっかーーーーーんっ!!!

かすかに見えていた塔の陰の方で、物凄い爆破音がしたと思うと、たちまち炎上しだした。
「なっ何だ!?」
「とっ塔がっ!!お姉さま・・・っ」
「大変だ、何が起きたのか解るような気もするが、急ごう、アールグレイ、ミント様!」



「あああああーんっ!なんてことするのよこの小娘〜!!!」
崩れ去った塔の瓦礫の真ん中で、やたらめったらセクシーダイナマイトな女性が
わあわあと騒いでいた。
「・・・・・魔王ってあんた?女だったんだ?
てっきりオネエ言葉のおかまかと思ってたけど。」
塔をぶっ壊した当の本人アプリコットは、セクシーダイナマイトなその魔王らしい女を見てそう言った。
「誰が男だとかおかまだと言ったのよ?!失礼ねっ。」
「はあ、そりゃ、失礼しました。」
「あああっもう・・・アタシの可愛いもの達が・・・。」
魔王は終いに泣き出した。
「お、おい・・・泣くなよ・・・・・悪かったよ、悪かったから・・・・・なあ、あの・・・」
へたりと泣き崩れる魔王。
そこに、ミント達が到着する。
「おっお姉さまっ!!!」
「何だ?ミントちゃん?!どうしてこんなところにお前が・・・」
「助けに来たのですわ!ご無事でしたのね・・・良かった・・・・・。」
「助けにって、ミントちゃん・・・危ないだろっ!
姉さんは全然平気だから、お前がそんな危険を冒さなくていいんだよ。」
「お姉さま〜〜〜〜〜!!!!!」
姉に抱きついて泣きじゃくるミント。
「全く女って泣き虫だなあ。よしよし。」
あんたは女じゃないみたいですねと突っ込みたくなるのを我慢しながら、アールグレイとガナッシュは
泣き崩れて震えているもう一人の女性を見た。
「・・・アプリコット様、こちらは?」
ガナッシュが問う。
「魔王さんだよ。ははっ。」
「ええ?!」
アールグレイは「目が飛び出た」というのがぴったりの表情で、思わず声を大きくした。


「アタシをどうするつもりよ。」
魔王は二人の騎士にとりあえず捕らえられ、魔法の手錠をかけられている。
「放っておくわけにもいかないから、連行させて貰う。」
アールグレイが言った。
「魔王だというが、お前は何者だ?名は?」
ガナッシュが問う。
「・・・・・・。」
沈黙する魔王。
「せめて名前だけでも教えてくれないか。」
ガナッシュは、少し優しげに再び問う。
「魔界の王妹、カルボナーラ。」
魔王はそう答えた。
「魔界王の、妹?!」
ガナッシュだけでなく、一同驚く。
「・・・・嘘じゃないわよ。」
なんだか哀れな雰囲気を漂わせながら、カルボナーラというその女性は言った。
「・・・・・なんだか可哀想になってきちゃったわ。
どうしてお姉さまをさらったりしたのよ。」
ミントが問う。
「アタシは可愛いものを集めるのが好きなの。でも魔界にはあんまり可愛らしいものって無いのよね〜。
だから、この森に塔を作って、こっちの世界で可愛いもの収集をしてたの。
沢山集めたんだけどね、ちょっと違うものをコレクションに加えたくて、
兄上が可愛い女の子を側に沢山おいているのを思い出したから、それでいこうかなーと・・・」
「それは趣旨的にも間違ってます。」
カルポナーラがつらつらと語ると、すかさずアールグレイが突っ込みを入れる。
「やっぱり駄目かしら?まあ、結果こんなことになっちゃったし、あぁあ・・・くすん。」
カルボナーラはおとなしく連行されながら、駄目になってしまったコレクションを想い、涙ぐんでいた。
「ごめんな、カルボナーラさん・・・。」
アプリコットは、やりすぎたなあ・・・と呟きながら、涙する彼女を見ていた。
その時だった。
「うわっ!?」
アプリコットに、突然黒い魔法の縄が巻き付いてきた。
「なっなんだよ?!放しやがれ!」
アプリコットはカルポナーラを睨む。
「あっアタシじゃないわよっ!?」
「何だ?!ちっくしょっ・・・」
「お姉さま!・・・きゃあっ」
黒い縄を解こうとしたミントは、縄の暗黒の力にはじき飛ばされる。
「ミント!」
「ミント様!大丈夫ですか?」
ガナッシュがミントを抱き起こす。
「私はいいから、お姉さまを!」
黒い縄は、アプリコットを捕らえて、少しずつ宙へ浮かび上がらせる。
「くっ・・・は・・・な・・せ・・・・・っ」
暗黒の力がアプリコットを苦しめる。
「ははははは。国一番のグラン・セージも、たいしたことはないな。」
何者かの声がする。
「誰だ!」
「何者だ!」
アールグレイとガナッシュがほぼ同時に叫んだ。
「ふっふっふっ。カルボナーラを泣かせる奴は、この私が許さない。」
そう言いながら現れたのは、黒いマントに燻銀の仮面をした・・・恐らくは魔族。
「あんた・・・バケット!?」
カルボナーラが、その魔族をバケットと呼んだ。
「カルボナーラを放せ。さすればアプリコット姫も放してやる。」
バケットは言う。
「どうする・・・?」
アールグレイはガナッシュの顔を伺う。
「放してやろう。」
ガナッシュはそう言った。
しゅるり、かちゃりと魔法の錠はほどけ、カルボナーラは自由になる。
「よしよし。では、帰ろう、カルボナーラよ。」
バケットは、未だアプリコットを捕らえたまま、カルボナーラに手を差し出す。
「いやーよ。誰があんたなんかと一緒に帰るもんですか。」
ぷいっとそっぽを向くカルボナーラ。
しばし沈黙が訪れる。バケットの仮面の下は伺えないが、その間に流れる空気が、
どういう顔をしているかを物語っている。
「カルボナーラ・・・そんなに私が嫌いか。」
「ええ、だいっきらい。」
再びしばし沈黙。そして妙な緊張感が漂う。
黒い縄を解こうとあがき苦しむアプリコットの声だけが時折・・・。
「解った・・・・・。では、この娘は預かっていく。
帰して欲しくば、カルボナーラを説得して魔界へ来い。ではさらばだ。」
そう言って、バケットはアプリコットを捕らえたまま、その場から消えた。
「お姉さまぁーーーーーっ!!!」
ミントの声が、暗い森に響く。
「くっ・・・・・こんなことになろうとは・・・。」
ガナッシュが苦渋の表情でそうこぼす。
「ってかあんたが帰ってくれれば何にも問題なかったんだけど!」
アールグレイがカルボナーラをジト目で睨む。
「・・・・・あの馬鹿バケット・・・・・。悪かったわね、でもあいつと一緒に、魔界になんて帰りたくないのっ。」
あくまでそっぽを向いて、カルボナーラは冷や汗を流しながら言う。
「あなたのせいでお姉さまがっ!!魔界へ案内なさい!!!命令よ!!」
「何でアタシがあんたの命令聞かなきゃならないのよ。」
半泣きで命令を下すミントに、一歩引きながらカルボナーラは反論する。
「どちらにしても魔界へ行かなければならないな。
案内して貰えないか、カルボナーラさん。」
「やっぱ行くしかないよなあ・・・。頼むよ、カルボナーラさん。」
アールグレイとガナッシュに頼まれて、カルボナーラはしばし黙り、嫌そうな顔をしながらも、
仕方なく同意した。
結局やっぱりアプリコット姫を救わなくてはいけない、騎士二人だった。

つづく・・・。






第2話へ

戻る