アプリコット姫を救え!
第2話 −ガナッシュの裏切り?妙な同行者−

「ああー・・・魔界だってさ。やだなあ・・・。」
アールグレイは、カルボナーラの案内で魔界への入り口がある場所へとぼとぼと歩きながら
しきりにぼやく。
「仕方ないだろう。」
ガナッシュは、この相棒のフォローにいちいち追われている。
さっきなどは、嫌がってひとり抜け出そうとさえした位だから、ガナッシュも大変。
「嫌なんだってば嫌なんだってば・・・・・そんな怖そうなところ嫌なんだってば・・・・・
俺も行かなきゃだ・・・駄目だよなあ・・・」
今度はひとりごとになっている。
「はあ・・・困った奴だねお前は。俺達は、大臣殿から姫を救う命を受けているんだ。
魔界にお化けは出ないから・・・。」
「アンデッドは出るだろ・・・。」
「アンデッドモンスターはお化けじゃないから。」
「みたいなもんだろー・・・だってさ、ゴーストとか、お化けじゃねーかよぅ。」
「ったく!そんなものその剣で切り捨てろ!!」
終いにガナッシュキレる。
「お、怒るなよガナッシュ・・・。解ってますよ行くってば。
言うくらい言わせてくれよー・・・。」
本当に行きたくないのだが、その場で繕う言葉でガナッシュを静めようとするアールグレイ。
「まったくもう。それが国一番の剣使いの言葉だろうか。しっかりしてくれ?」
ガナッシュの呆れ顔。
「はい。努力致します。」
眉がつり下がったまま、アールグレイは言う。
アールグレイが国一番の剣使いというのは本当で、ガナッシュは相棒に及ばないことを自覚している。
でも、この子供じみた彼をしっかり手綱を引いて上手くフォロー出来るのはガナッシュだけだと、
周りは思っているし実際、信頼や剣技以外の騎士としてのレベルはガナッシュが上だと
誰もが思う、事実であった。
いちいち二人が下手な漫才の様な会話をしているのを、ミントはくすくすと笑いながら、
楽しそうに見ている。
城の中で姫様をやっているのに飽き飽きしている彼女には、この旅は楽しいものだ。
ただ、姉のことを思えば、心は穏やかではないのだが。
「あの二人っていつもああなの?」
カルボナーラがミントと騎士二人を交互に見ながら言う。
「そうみたいよ。ふふふっ。」
いつまでも漫才会話が続くので、ミントは終いには大笑いしだした。
「・・・何がどうしたんですかミント様??」
ガナッシュに襟首を掴まれているアールグレイが、冷や汗をかきながら言う。
「ほら笑われたじゃないか馬鹿。」
すっかり素で怒るガナッシュ。
「あっはははははははっ。あなた達って、見ていてもう・・・可笑しくて・・・。」
爆笑しているミント。姫君には、こんな他愛ない子供じみたケンカも、新鮮。
「はぁ、行くわよ?いいの?」
呆れまくるカルボナーラ。
「すまない、先へ急ごう。」
突然騎士の顔になるガナッシュ。こんなことをしている場合ではない。
そんなこんなで、とある森を歩いていたときだった。

「痛っ・・・」
「大丈夫かいゼリー・・・ああ、薬草を切らしているのに・・・」
男女の二人連れが、道の途中で座り込んでいる。
女性の方が、怪我をしているらしい。
よく見れば、血がかなり出ている様だ。
「どうしたんですか。」
ガナッシュがいち早く駆け寄る。
「魔物に・・・」
男性の方が言う。
「すいません、見せてみて下さい。」
そうガナッシュは言いながら、血の流れる傷口へ手をかざす。そして−
「アリナ・フィダ・ルシール。」
そう唱えると、女性の傷は一瞬にふさがって治癒された。
「ありがとう・・・」
女性は少し驚いて礼を言う。
「まあ、知らなかった。ガナッシュって治癒魔法を使えたのね。」
ミントも驚いて言う。
「あれに俺そうとう助けられてます。」
笑いながらアールグレイは言う。
「ありがとうございます。薬草も無く、ゼリーも立てそうもなくて、どうしたらと思っていたんです。」
男性がそう謝する。
「そして貴女の様な素敵な方に出会え、その上妹を助けて頂いた・・・。
なんていう運命・・・。私はロゼと申します。宜しければ貴女の名を・・・」
ロゼと名乗る男性は、つらつらと口説き文句の様な言葉をその滑らかな口で流しながら
ガナッシュの手を取り、見つめる。
「・・・・・はあ、すいませんが急いでますので。」
その手をふりほどいて、仲間達を急がせるガナッシュ。
「ああ!お待ち下さい!!せめて名前だけでも・・・」
「お兄ちゃん、駄目よ?悪い癖ねえ。あの人は見たところ騎士様でしょ。
お兄ちゃんがそんなことするから、あたしがちゃんとお礼出来ないじゃない。」
妹ゼリーが言う。その目は呆れと怒りが半々。
「・・・あのー、言っときますがあいつ男ですよ?じゃ、急ぐんで!」
さりげないフォローをしながらアールグレイも先へ急ぐ。
そして
「変なのが出てきて、急がされたじゃねーかよ・・・」
と、ぼそっと呟いた。

一行が森を進む。
ロゼとゼリーも後ろを歩く。
「・・・ついてきてるのかしら。」
ミントが怪訝そうに言う。
「あちらさんもこっちに行くんじゃないんですか。」
アールグレイが返す。
「ついてきてるんでしょ。あれだけ離してたのに追いついてきてるわ〜。
気に入られたのねえ、きっと。」
カルボナーラがにぃと笑いながら言う。
「男だっつっといたんだけどなあ。」
「綺麗だったらおとこもOKなのもいるわよ〜。」
「やめてくれ。」
気色わる・・・とアールグレイはおもむろに嫌な顔。
当のガナッシュは、さっさから無言。
「ほーら怒ったじゃん。あいつ女と間違えられるとすっげー怒るんだから。」
「まあ、怒るわよね。でもガナッシュは綺麗な顔をしてるものね・・・。」
「いや実は俺、初対面のときに、女の子だと思っちゃって、もう大変だったんすよ。」
「まあ、それで?!」
「いやあ、初対面でいきなり組めって言われて、
女の子とですか〜?って言っちゃって。すっごい睨まれましたね。ははは。」
「でもすっかり名コンビになったのね。」
「まあ、他に相棒いませんね。」
アールグレイとミントは、ひそひそとそんなことを話していた。
「聞こえてるぞアールグレイ。」
ガナッシュの一声で、しばらく静まりかえった。

途中の宿で一泊することにした一行だが、例の兄妹もここへ泊まるという。
「しつこいわね。」
ミントの感想。
「やー、温泉あるって温泉♪」
アールグレイが楽しげに言う。
「混浴だから嬉しいんでしょ〜。」
「え?混浴??そりゃまた・・・。」
カルボナーラに突っ込まれたが、それで混浴の存在を知るアールグレイ。
「まっ、男湯にしときます。」

「お兄ちゃん、混浴ですって。」
ゼリーが温泉の看板を指して言った。
「私は何処へ入ればいいんだろう。」
ロゼが言った。
「混浴じゃない?仕方ないじゃない、お兄ちゃん男湯入るの?」
「・・・それは・・・・・・」
ゼリーに言われて、考え込むロゼ。
「女湯でもいいよ?あたしも一緒に・・・」
耳打ちするゼリー。
「・・れは困」
「はいはい。」
ロゼの肩をぽんぽんと叩きながら、ゼリーは聞こえないようにこぼす。
「女なのに女湯に入れないってのも変な話。」
ロゼは、男装しているだけで、しっかり女性なのである。
ただ、そっちの道に走っているため、女湯には入らない・・・のだそうで。

「めしもそこそこだし、温泉もいい湯だったし、これ以上先進むの嫌だぜ。
しかしいくら温泉湧いてるからって土産まで作るか。」
そう言いながら、しっかりと、使い道なさそうな土産ものを買って、
部屋へ戻ってきたアールグレイ。
「あれ、ガナッシュいないのか。温泉行ったのかな。
・・・じゃあ・・・・・鬼の居ない間に混浴行ってこよっと♪」
行きたかったらしい。

「まあどうせ俺みたいな男しか入ってねーだろーけど・・・」
そう言いながら風呂の戸を開けるアールグレイ。
まずは誰か入っているか見てみる。
「・・・あれ、ガナッシュ!なんでぇ、お前がそういう奴だったとは〜。」
にたにたと笑うアールグレイ。
それを無言で、硬直しているかの様に見るガナッシュ。
「お前真っ赤じゃん。のぼせてんじゃん?」
言いながら湯に浸かったアールグレイも、とたんに硬直した。
数秒差で真っ赤になっていった。
「・・・・・・・・!?」
アールグレイが見たものは、相棒であるはずの、女性だった。
「っななななな???」
口から出たのは、困惑の声。
「・・・・・女湯にはミント様もカルボナーラさんも入るんだから、仕方ないだろ。」
ようやく口を開いたガナッシュ。
「待てよ待てよ待てよ・・・・・・マジ?」
あまりに驚いて、わたわたしながらも、アールグレイはガナッシュをじぃと見ている。
「お前ガナッシュだよな?違ったらごめんなさい??」
よほど困惑しているらしい。
「相棒の顔を見間違えるか?アールグレイ。
・・・・・隠してたのは悪かったから・・・そんなに見ないでくれないか?」
「あ、えーと、ん・・・・・と、それ本物?そんな巨乳どこに隠して・・・」
「だから見るなって言ってるだろ!!」
「あ・・・ははは、やっぱガナッシュだな・・・。あ、えっと、俺出るから、ゆっくり入ってろよ。
・・・はあびっくりした・・・・・・・」
そう言って、いそいそとアールグレイは混浴から出ていった。が・・・
着替えて脱衣所を出ようと思ったそのときだった。
ロゼとゼリーが入ってきたのだ。
「あ」
「・・・あ」
「わ」
それぞれ若干のズレがあるながらも、ほぼ同時に発した言葉。
「あーえっと!今は入んないでくれ頼む!」
アールグレイが慌てて道をふさぐように、二人を追い返す。
「なんで?・・・誰か入ってる?」
ゼリーが聞く。
誰か入っていると、ロゼ達も困る。誰もいないのを狙っていたのだから。
「えーと、その・・・」
アールグレイが返答に困っていると、ゼリーがロゼを促して、
「じゃいいわ。お兄ちゃん行こ。」
「あ・・・あああ、・・・・・・相棒の彼女によろしく・・・。では。」
中に居ることなど知らずにも、そんなことを言って去っていくロゼ。
「馬鹿なこと言ってないの。」
と、ロゼの手を引くゼリー。
「・・・・・ふぅ。俺入り口で見張ってよう。」
アールグレイはそう言った後、
「初めてガナッシュに裏切られたみたいな・・・」
そう呟いた・・・。



魔界。
「こらてめえ、俺様をどうするつもりだ。」
アプリコットはバケットを睨む。
いくら魔法をぶつけようと壊れない牢。
ただ閉じこめられているアプリコット。
「カルボナーラが来るまでは、そこでおとなしくしていてもらう。」
バケットは振り返りもせずに言う。
アプリコットは、牢の中からバケットの背を睨むのみだった。
「くっそー・・・ジェテ・バル・パウ・レフラドーテ・・・」
「無駄だ。」
バケットの背で、爆発音だけがした。バケットの言葉もかき消える。
「ちっくしょう・・・」
牢は壊れない。助けを待たない、姫だった。

そして、こちらは王宮。
「ああ全く、魔の塔は崩れたというのに、帰ってこないのはどういう訳だ・・・。
騎士プレッツエルよ、あの二人は何をしておるのじゃろう・・・。
ミント様までいなくなってしまうし・・・むぅぅ・・・」
大臣が頭を抱えて言う。
「あのお二方、仕事はしっかりやりますから、何か訳があるのではないかと。
ミント様は、付いていったのに違いありません。」
騎士プレッツエルが言った。
「申し上げます。隣国の王子カフェラーテ様がおいでになりました。」
一兵士が言った。
「な、なぬ?カフェラーテ王子が・・・?!
ぬ、ぬう、お通しせよ。」
大臣汗だらだら。
「やあ。突然来てすまないけど・・・アプリコットはいる?」
カフェラーテは、アプリコットの婚約者である。未来の婿養子である。
しかし、喧嘩ばかりで仲が悪く、周りの者達は行き先に不安を感じている。
「いやその・・・」
大臣は、どう言って誤魔化して帰って貰うか考えながら、しどろもどろ。
「いないんだね?どうせあのアプリコットのことだもの、人に頼み事をしておいて、
自分は何処かへ遊びにでも行って暴れてるんだろうさ。
じゃあ、これをアプリコットに渡しておいてくれるかな。
僕はこれで。」
帰ってくれそうで、安心しながらも、大臣は渡されたものについて聞いておくことにした。
「はあ・・・申し訳ありません王子。して、こちらはどのような?」
「ああ、アプリコットが、僕に探せと言っていた、魔法の書物さ。
全く、大変だったんだよ、その古い本を探すのは。
あのばか女の口から、礼を言わせたかったけど、いないなら・・・」
カフェラーテが愚痴を言い終わらないうちに、一兵士が再びやって来て申し立てた。
「申し上げます!西の森には、アプリコット姫様もミント姫様もアールグレイ殿とガナッシュ殿も、
見あたらないとの報告が・・・」
「ぬ!ばかものっ言っていいと言ってから言わぬか!!」
王子を前にしているが故、大臣慌てる。
「は・・・失礼致しました・・・・・。」
一兵士はしょげながら下がっていく。
「どういうこと?」
訝しげに、カフェラーテは聞く。
「・・・・・ぬ・・いえその・・・ですね・・・」
「何?アプリコットがどうかしたの?!」
カフェラーテは大臣にずいずいと近づきながら、声を大きくして言う。
なんだかんだ言って、アプリコットのこととなると、彼は落ち着いてなどいられないのだ。
「そ、その・・・実はで御座いますね・・・」
汗だらだらの大臣は、仕方ないとばかりに、観念して理由を話した。

話を聞いたカフェラーテは、そのまま西の森方向へ走った。
慌てた大臣に言われて後を追ってきたプレッツエルとともに。
「あのばか女・・・っ」
「お待ち下さいっ!!カフェラーテ殿下!!!」
「プレッツエル、西の森はこっちでいいね?」
「ですからお待ち下さい・・・。」
「僕だって魔道剣士のはしくれだよ、何があったって・・・」
「ではなくて・・・西の森は、あちらからでないと。」
「・・・早く言ってよ。」
追いつけるか、カフェラーテとプレッツエル・・・。

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えろっぽい展開ですいません。
カフェ君とプレッツエルはまともなやつだと思うから・・・。


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