第16話「魔界の光」


朝食をとりながらの会議となった。
この面子の中で一番権威があるミントとロゼが、騎士達の名を連ねてシチュードバーグ王城に書状を書いた。
カラメルの町の一件は、国王カマンベールへと届けられることとなった。
ミントの無事と、アプリコットの件も連ねる。
このまま魔界に向かうことは、王の命を待たぬ行動であるが、そんなことは言っていられない。
命令を待ったところで、魔界に行くことは変わりないはずだ。
待つだけの時間があるならば、一刻も早く王女のもとへ。
それが、ここにいる全員の一致した意見だ。
はっきり言って、そこにいる全員が恐ろしい話だと思っていた。
カマンベール王の娘達への溺愛振りは、特に王城勤務をしていたことがある騎士達はよく知っている。
溺愛する甘い父親に、閉めるところは閉めるが放任主義の母親アンジェリカ。
はっきり言って、王に「アプリコット姫がさらわれてしまいました。ミント姫は共に来ております。」
等としっかり言うのは恐ろしい。
アンジェリカ王妃になら言える。
カマンベール王にはとても言えない。
それでも、これ以上報告も何も無しに事を進める訳にはいかない。
アールグレイとガナッシュの成り行き任せの行動から出て、カラメルまで来たのはまあ良しとする。
この二人は、騎士というのは名ばかりの、使い走りの傭兵みたいなものであったから、多少成り行き任せで走っても、笑ってごまかせるところがあったが。
ここにいる面子はもう、笑って済ませられるような面子でも無し。
ラズベリーは、カリーの王子が二人とも一緒に来ていることは出すなと言った。
本当はそれも書き連ねるつもりであったが。
「いいから。国家の問題にまで発展させる意味はないよ。
僕達はいつも勝手に歩き回っているからね、ここは黙っておくことさ。
僕がそう言うんだから、大丈夫。」
ラズベリーはそう言ってウインクしていたが。
慎重派なカシューとグラッセは、後のことが心配であった。
カシューは、ロゼが博士号を受けた辺りから、王城勤務の聖騎士から研究所勤務の守備副隊長になったのだが、
王城にいた頃からも、王室にまでは出られなかった。
アールグレイ達が特別だったのだ。
アプリコットに気に入られた騎士は、階級が低いながらも王室に直に出入りできた。
それ故に、国王がアプリコットとミントをどれだけ溺愛していたか、どれだけ甘く、過保護だったかをよく見ていた。
その割に娘達は奔放で、自立心も旺盛だったが。
グラッセは傭兵として研究所に勤務していたから、王城の内情までは知らない。
もう、こうなってしまったからには、アプリコットを連れて帰るしかない。
助けた王女に頼るしかない。
結果オーライ、終わりよければすべてよし。
そうするしかない。
そのためには、なんとしても魔界へ行かなければいけない。
そのためには、船が出なければいけない。
会議を終わらせた一行は、シャーベットに直談判しに行くことにした。
わざわざ借りを作ったのはそのためでもあるのだから。


海賊達は、昨日の騎士達をあっさりと歓迎してくれた。
シャーベットはまだ寝ているとのことだった。
そうなれば、ウイスキーにまず会おうということになったが、
騎士達が来たと聞き、彼は呼ぶまでもなく出てきてくれた。
「おう、昨日は本当に、礼を言っても言いきれねえ。
坊ちゃんはまだ寝かせてやってくれねえか。
元気そうにはしてたが、実際ひでぇ目にあったんだ、休ませてやりたいんだ。」
ウイスキーはそう言ったが、勘が良いのか、シャーベットは騎士達が来ていると
話し声で察知して、ビアを伴って出てきた。
「もう大丈夫さ、わざわざ来てくれたのにさ、俺が寝てるわけにいかないじゃないか。
ホントに・・・何て礼を言ったらいいか・・・。
あんた達が何者かは知らないけど・・・そう、どうして俺を助けてくれたのか、聞きたかったんだ。」
シャーベットは、澄んだ聡明そうな瞳でそう言う。
隣で微妙な色の視線を、無言で向けてくるのはビアだ。
この二人の子供は、思ったよりずっと聡明であるらしい。
突然現れた騎士団は、ただの正義の味方ではないだろうと。
そもそも騎士である。海賊にあっさりと力を貸すなど、そうあり得ない。
お国の指令が無い限り、勝手に動いたりはしないものだ。
それが、どうもこの一団は何か違う。
その騎士達は、昨日より数名多い面子で、とんでもないことを言い出したのである。
魔界の入り口があるという、ヨーグル島。
魔物の巣窟であるというその島へ、船を出せと言う。
その海域は、海賊達も避ける、魔物が多い上に未開の地であるから、そこへ船を出すというのは、海というものを大層甘く見た話だった。
それに。
今のシャーベットには、船がない。
シャーベットが所持する船一隻は、シャーベットを弾圧した、町を荒らしたまま、突然姿を消してしまっていた海賊達の側にあるという。
その反シャーベットの海賊は、国に任せるつもりでいたのだが、何だかそうも行かなくなったようだった。

「じゃあさ、船だけでも取り戻すの、手伝ってくれない?
そうしたら、その足で海に出るよ。
そういう喧嘩は得意そうだしさ、それならどう?」
シャーベットは笑顔でそう言う。
「そういうことなら、勿論オッケー!だよな!?」
嬉しそうに振り返るアールグレイ。
「それしかないだろ。もう、ここまで来たら多少荒っぽいのは仕方あるまい。」
と、ガナッシュ。
「・・・全く、騎士の言うこととは思えませんね。
まあそれが一番手っ取り早いとは思いますけどね。私に異存はありませんが。」
ロゼは苦笑する。
「よっしゃ!ホントはオレ、残りの海賊ども気になってたんだ。
シャーベットだって仕返ししたいだろ!?」
「プリンちゃんはホントに血気盛んなんだからね・・・。」
「決まりだ。ここで引き下がるわけにはいかないさ。」
プディング、ラズベリー、そしてカフェラーテが言う。
「よし、じゃあ、船を動かすのに最小限の手下は連れて行くけど、はっきり言って戦力にならないから、そこら辺は任せたいんだよね。
・・・もともと仲間同士だったんだ、甘いかも知れないけどさ、同士討ちは見たくないんだよ、あんまりね。
まあ、あいつらはそんな俺が気にくわなかったんだろうけどさ・・・。」
憂いを秘めた瞳を隠すように、強く笑みを浮かべたシャーベット。
「わかった。でも向かってくるヤツは殺さない程度に叩き斬るからな。」
珍しく凛々しい顔でそう言うアールグレイ。
「話のわかる人達で嬉しいよ。」
そう笑うシャーベットが美しくて、後ろでおどおどしていたミントは
ほう・・・と見とれていた。
「・・・海賊のお頭が、女の子だったなんて・・・。」
見とれながらそう言った。
それを聞いたシャーベットの表情が変わる。
「誰が女の子だって・・・?」
横でビアが声を殺して笑っている。
「え・・・?ち、違うの・・・??だって、こんな綺麗な・・・」
ミントは目を見開いて、リアクション付きで本気で驚く。
「俺は正真正銘の男だぞ。何が嫌だって、女だと思われんのが一番嫌なんだよな。女の子ってのは、あんたみたいな人のことを言うんだよ!」
本気で怒っている。賢そうなシャーベットだが、そこは逆鱗であるらしい。
「ご・・・ごめんなさい・・・。」
「わかればいいんだけどさ。・・・悪い、これ言われると何かマジでキレちゃうんだよ。
おい、何そこで腹抱えて笑ってんだビア!!!」
「ひゃっはっははは・・・。お前の反応とその子の反応がマジでおかしいぜ。
大丈夫だ、この美人揃いの騎士の中に入ったら、オメーも霞むから。」
こらえきれずに笑うビアにそう言われて、余計にキレるシャーベット。
「っ!!!こんのやろーっ!何かお前にそんなこと言われるのはめっちゃくちゃむかつく!!!」
ただの子供同士の可愛い言い争いにしか見えないそれを見て、「騎士団」一同も笑う。
「綺麗だって言われんのも嫌だけど、けなされるのも嫌なんだな・・・。」
そう零したのはアールグレイだった。
「美人揃いって・・・一見男装してるのばっかりなのに・・・。
頭数男の方が多いはずなのに・・・。」
心外そうに言うガナッシュ。
「だってさ、ガナッシュ男に見えないし。今思えば、お前も博士もプディングも、
何で騙されてたのかはっきり言って、謎だぜ?!
俺の女見る目はおかしいのかとマジで思ったぜ?
俺もうガナッシュが男だとは思えないから。」
アールグレイは妙に力を込めて言う。
「・・・そ、そうか。そうなのか。」
ガナッシュは冷や汗をかきながら、押され気味な返事をする。
「オレも男に見えないのか・・・?まあ背小さいし、いい加減無理かとは思ってたけど・・・。」
プディングが首をかしげる。
「僕はそうなんじゃないかと思ってたよ。君が男だって言うから、仕方ないかなと思ってたんだけど・・・
やっぱり恋人は女の子がいいしね。」
ラズベリーが言う。
「誰が恋人だ!」
プディング、蹴りを入れるが避けられる。
「・・・まあともかく、話は決まりましたね。準備に取りかかりましょう。
こちらはいつでも出られると思いますが。」
ロゼが言う。
こうして、一行はまたひとつ、仕事を増やしたのだった。



魔界はただただ暗く、人間界ではあり得ない色合いの空にはそれでも雲があり、
段々と雫を降らせそうな気配を漂わせる。
追っ手は一人。
時折感じる気配は一人。
「・・・これは、鬼神術士の気だな。魔界人にも鬼神術士がいるんだな。
俺を追っているのか、お前を追っているのか、どっちだかな。
負ける気はねェが、ここでやり合うのもどうだかな。
さっさと帰りたいってのによ。」
アプリコットは、珍しく焦っていた。
一向に帰れないからではない。
力が制御出来ない。
一度外した、ロゼに作らせた魔力制御のピアスは、すっかり壊れてしまっていた。
どうにも溢れそうな魔力が、抑えるだけでも精一杯な程の魔力が、今までここまででは無かったはずの力が、溢れ出ては止まらない。
放ってしまえば、どれほどのものか。
興味はある。大いにある。
だが、ここは見知らぬ土地だった。
恐いわけではない。
簡単に、恐ろしいまでの魔力を放出するのは、得策ではないし制御できない。
これ以上敵を増やすのは歓迎できない。
追っ手は、一向に姿を見せずに後をつけてくる。
何者かはわからない。
魔界において、魔力というものは、比較的察知されやすい。
少なくとも自分に好意的ではないだろうと思うから、馬鹿みたいな力を噴出することは避けたかった。
その後の自分も、どうなっているかわからない・・・。
止められなくなった魔力というものは、恐ろしいものだ。
だから、制御アイテムなんていうものをわざわざつけていたのだから。
「・・・魔界王家の下に、鬼神術士の優れた者がいる・・・。
この気は、その者だろう・・・・・。
アルデンテか・・・・・。
私を連れ戻しに来たのだろう。
もう、最早貴様を抑えることも敵わぬ・・・。私を引き渡したらどうだ。
あれはただ、夫が私を連れ戻すためによこした親衛隊だろう・・・。」
力なく、魔の神でありながらアプリコットの魔力に圧倒されてただ歩いていた
ミーソであったが、ここで観念するしかないかと、思っていた。
結局あがいても、側にいて欲しかった人は手に入らなかった。
そんなミーソであったから、自分を必要とし、側にいて欲しいと願う者がいるという
そのことに、気がつかない。
欲しがってばかりいると、離れていくばかりか、周りなど見えないものだ。
自分など、愛されない魔神でしかない。
何が魔の精霊神か。
この、恐ろしい魔力の持ち主は何だ。
最早自分の存在価値すらわからない。
何のために転生したのか。何のために魔界に来たのか。
何のために・・・わざわざ魔界王の妻などになったのか。
魔界王ブラックペパーは、愛した相手が自分を愛しているわけではないと知っていた。
それでも、この寂しそうでいつでも愛を求める精霊の子供に、手を伸ばす方法を間違えたその手を温めたくて、
理由はわからないが言い寄ってきたその美しい人を包んでいた。
魔界王は一見子供で馬鹿に見えかねない。
それでも、愛情に溢れていた。
この王は、魔界人に絶対の支持を得ている。
不毛な魔界においての、光とも言えた。
魔界はけして、人間や精霊などを脅かすものではなく、ただ一方的に畏怖される。
そこには、魔と同時に、闇と負の力が渦巻く。
狂気する魔物が住まう。
その不毛な世界を、ある程度平和に治めているのが、ブラックペパーなのだ。

「・・・諦めたか。まあ、そう言うんなら、引き渡してもいいけどよ・・・。
でもお前、カルボナーラに会いたいんだろ?
それに、俺様をちゃんと帰してもらわねえと困るんだよ。
おめーの部下でもあるんだろ、話つけろよな。
平和的にいかねえとな、平和的に。
・・・何かお前も見てられないしな・・・。」
アプリコットは、制御出来かねる魔力に冷や汗をかきながらも、
ただ黙ってついてきていた、何故か哀れな精霊神が放っておけなくなっていた。
もともと何処か、お節介な性質がある。
この神様と魔界には、何かあるなと感じとる。
もうこのミーソには、世界を手に入れる等という気力は伺えない。
詳しいことは、帰ってから内なるソルト神にでも聞いてみようと思っていた。
まずは無事に人間界に帰らなければいけない。
「・・・アルデンテは、私の言葉など聞かぬぞ・・・。」
ミーソは、目を合わさずにそう言う。
「信用無いか。とんだ王妃だな。
・・・おい!そこの魔界の鬼神術士!いつまでそうしてるつもりだよ。
王妃は帰るって言ってるぜ。俺は別に危害を加える気はないぜ。」
アプリコットは声を大きくして、気配を感じる方向に話しかける。
数十秒。
静かな空気に、雨音がまじる。
姿を現したのは、魔界人の特徴である、尖った耳を持っていない、人間のように見える
20歳そこらの娘だった。
「・・・お前は何者だ。その魔力、人間が持つにはあまりに大きい。」
その娘、アルデンテは、王妃のことよりも、むしろアプリコットに興味がある様子だった。


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ちょっと長かったかな。
アプリコット姫久しぶりでした。
アールグレイ達もまだ、なかなか魔界に行けませんが。
忘れられていそうな話がちらほらと。
魔界王は恩情の厚い人だったりする。カクテルはどうしたかって思われそうですが、次で出ますから。

続く。

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