アプリコット姫を救え!第一話

どっかの国。
大臣が血相変えて騒いでいる。
「おおーっアプリコット姫が魔王にさらわれてしまった!!
国王陛下がお留守のこの様な時にっ!ああどうしたら・・・」
大臣は慌てふためいてパニックを起こしている。
「そうじゃ、そうじゃ!!騎士アールグレイとガナッシュを呼べ!!」
「はっ。」
兵士が二人の騎士を呼びに行った。二人の騎士は、空の王座のある王の間へ
何事かと話しながらやって来た。
「騎士アールグレイ、これに。」
「騎士ガナッシュ、参りました。」
大臣は相変わらずわたわたしながら二人に命を下す。
「アプリコット姫が魔王にさらわれてしまったのじゃ!!
アールグレイにガナッシュよ!姫様を助けに行くのだ!!!今すぐじゃっ!」

こうして二人の騎士は、王女救出へ向かうこととなった。
「まったく面倒くさいなあ・・・」
アールグレイはあくびをしながらしきりにぼやく。
「まあ、仕方あるまい?国王陛下はアプリコット姫を溺愛しておられる。
大臣殿が慌てるのも無理はないだろう。」
相棒ガナッシュも、本当は面倒だ、という顔をしながらそう言った。
二人はぼやきながら城下町へ続く道を歩いていた。
「・・・誰かにつけられているな。」
ガナッシュが言った。
「え、マジ?」
気づいていないアールグレイ。
「姿を見せろ!居るのはわかっているぞ!!」
ガナッシュが振り向きながら言う。
「・・・・・流石は騎士ガナッシュね・・・。」
「!!」
そこに現れたのは、アプリコット姫の妹、ミント姫であった・・・。
「ミント姫様・・・?どうなさったのです?!危険です、お城へお戻り下さい!!」
アールグレイが若干慌てた口調で言うが、ミントはふふんと笑う。
「私も行きます。嫌とは言わせないわ。お姉さまのことを思うと・・・
黙って城で待ってなどいられない。いてもたってもいられないのよ!!」
「ですがミント姫様・・・」
ガナッシュがやれやれという面持ちで、どう言って帰そうかと思案しながら言うが、
ミントは「絶対に付いていくわよ」と顔に書いてある風だ。
「まいったなあ・・・。」
アールグレイとガナッシュは顔を見合わせて苦笑する。
どう言ってもきかないミントに押されて、二人は同行を仕方なく同意した。
「ああ・・・お姉さま・・・・・。どうかご無事で!魔王がお姉さまに何かしたら、
絶対に許さないわ。今頃どうしておられるかしら・・・ああっ。」
見事に派手なリアクション付きで、ミントは姉の身を案じる。
「どうでもいいけど・・・って良くないか。魔王って何者だよ?
西の森の魔の塔にいるっていうけど・・・。」
アールグレイが言った。
「そうだな・・・、何者だろう。しかしあのアプリコット姫をさらってどうする気なのだろう。
そっちの方が謎だ。」
ガナッシュが言った。
「それはどういう意味よ!?美しく優しく気高く、そしてこの私の姉。
そんなお姉さまなのよ。さらってしまいたくもなるというものよ・・・。
ああ・・・お姉さまどうかご無事で・・・」
ミントはいちいちジェスチャー付きで言う。
「・・・・・まあ、なんだかわからんけど、お助けしなければな。
ミント様、我々の側を離れないで下さいね。」
「解っているわ、アールグレイ。でも、私とて魔道士の修行を積んでいるのよ。
あなた達の足手まといなどにはならないわ。」
「それは頼もしいですが、無茶はなさらないで下さい。あなたにまで何かあったら、
我々は立つ瀬がないどころの話ではないですから。」
ガナッシュはあくまで冷静だった。

一方、ここは西の森の魔の塔。
アプリコット姫がさらわれてきた、その場所。
「おい、いつまで俺様を閉じこめておくつもりだコラ。
おい、聞いてんのか?だいたい姿を見せねェってのも
気にくわねえ。おい魔王とやら、聞いてんのかぁ!!!」
アプリコットは、えらく乱暴な言葉で、うさぎのぬいぐるみに向かってがなりたてる。
「・・・・・まったく、なんて姫君だろうね。
折角可愛いコだと思って、魔王らしく姫さらいをやってみたのに。
はあ・・・妹の方にすればよかったわぁ〜・・・。」
ぬいぐるみから、奇妙な声が聞こえる。
「んっの野郎・・・。ミントに何かしてみやがれ。
俺様がただじゃおかねェ。」
アプリコットはぬいぐるみに向かって凄む。
「やあん、こわぁ〜い・・・。」
「きっしょくわりぃんだよテメエ!!!」
ぬいぐるみから聞こえる魔王の声に、
アプリコットはぶち切れそうになって、牢の鉄格子をがたがた
いわせている。

一方、騎士二人とミント姫。
「ここが魔王のいる、西の森ね。
ようし、待っていてお姉さま!このミントが、
今お助けに参ります・・・!!」
「なーんか気持ち悪い森だなあ・・・。
ミント様、本当に行くんですか?大丈夫ですか?」
アールグレイは、むしろ自分が不安なのを隠すように、ミントを気遣うふりをしている。
「まあアールグレイ、怖じ気付いたのかしら?」
「ぎくっ」
「・・・まったく。いいですかミント様、私から離れないで下さい。
くれぐれもひとりで突っ走らない様・・・。
それからアールグレイ、情けないぞ、しっかりしろ。」
ひとり冷静なガナッシュ。
「ガナッシュ〜、俺がこういう出そうな場所が苦手なの知ってるだろ〜。」
アールグレイは情けない表情でガナッシュに暗黙の助けを求める。
「魔物は出るだろうが、おばけは出ないから心配するな。」
やれやれという面持ちでガナッシュは言う。
「な、ならいいけど・・・」
「さあっ!行くわよ二人とも!!
私についていらっしゃい!!!」
ミントはひとり元気だった・・・。

そして魔の塔の方は・・・
アプリコットが鉄格子を壊そうと、高等魔法を詠唱している。
「ラプラルテカマ・リヴァル・シェプリアル・・・」
「おっおやめっ!!そんな高等魔法放ったら・・・・・
鉄格子どころかアタシの大事な可愛いものコレクションまで・・・!」
うさぎのぬいぐるみから聞こえる魔王の声は、
アプリコットが監禁されている部屋の中の、自分の大切なコレクションを心配している。
「へっ!さっさとこうしちまえば良かったぜ!!」
アプリコットは詠唱を終え、その手にはまばゆい光が。
「ブライト・シャイニン・ファイアー!!!」
その手から放たれた魔法の光は、白き炎となりて鉄格子を突き破り、焼き尽くした。
「あああっ・・・」
魔王の声は、震えている。
可愛いものコレクションを心配するあまり、震えている。
「なーんでえ、こんなんで壊れるんだったら、さっさとやりゃーよかったな。」
炭と化した鉄格子のクズを踏み越えて、アプリコットは「可愛いもの」たちを見てやろうと
豪華な棚の方へ足を運んだ。
「・・・なんだこりゃ。魔王なんて奴の趣味とは思えねえな。
ミントが喜びそうなもんがいっぱいだ。」
そこに陳列された数々の可愛いもの・・・
ぬいぐるみ、お人形、マスコット、アクセサリー、
誰が着るのか可愛いワンピース、人気アイドルのポートレート
等々・・・可愛いものが壮観なほど並んでいた。
「あっあっ、アタシの大事な可愛いものたちに
何をするの〜!!やめなさいやめなさい・・・」
魔王の声はうわずっている。
「これの中に俺様を加える気だったのかよ。
まあ俺様外見は可愛いしな・・・お、これなんかレアじゃん?5年前に引退した
アイドルのショコラちゃんのポートレートだ。はははー、そういや騎士のアールグレイが
ショコラちゃんの大ファンだってのはうちの騎士団じゃ有名だけどなー。」

「ふぁっくしんっ」
アールグレイのくしゃみ。お約束の様に。
「何だ、寒いのか?風邪はもう治ったんだろう?」
ガナッシュは心配そうにアールグレイを見る。
「うーん・・・誰か噂でもしてんのかな・・・えーとティッシュはー・・・」
自分の道具袋の中を探すアールグレイ。
ティッシュを出すと、ひらりと何かが落ちた。
「落ちたわよ?何かしら。
まあ、元アイドルのショコラちゃんのポートレートじゃないの。こんなものを持ち歩いているの?」
今にも吹き出して笑い出しそうな顔をして、ミントはポートレートを持ち主に差し出す。
「いいじゃないですか・・・
ショコラちゃんは俺の永遠の天使で女神で心の恋人なんですっ。」
アールグレイはポートレートの砂をはらいながら言う。
「・・・そういえば、ガナッシュはショコラちゃんに似ているわね。
彼女が大人になったら、こんなかんじかしら?」
ミントはガナッシュをしげしげと見ながら言った。
「・・・似てませんよ。私は男ですので。さあ、早く行きますよ。」
ガナッシュは突然表情を変えて、早足に歩き出す。
「あいつとショコラちゃんを一緒にしないで下さいよ〜。
ガナッシュはたしかに女顔ですけどね・・・。」
「早く行くぞ!!」
アールグレイの言葉をかき消すかの様に、ガナッシュは声を荒げる。
「何なのよ。まあいいわ、ああっお姉さまっ今参りますー!!」
ミントが駆け出す。
「わあ、待って下さいよー。」
アールグレイも二人において行かれそうになって走り出した・・・。

色々と、前途多難である。

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