第7話 「魔王の血・勇者の血。目指せヨーグル島」


炎上する部屋。壊された牢。
一歩も動けずにいるミーソ。
そこに、真紅の瞳をたたえた少女がいる。
アプリコット。
恐ろしい魔力の高まり。
彼女の碧だった瞳は、今、紅い。
「なっ・・・な、貴様、何者だ・・・?」
ようやくそう、それだけの言葉を息を吐くように、ミーソは言った。
「何かよくわかんねえが、こんな異常なくらい魔力が上がったのは初めてだぜ。
おもしれえくらいだ。どんどん力がみなぎってくるぜ!さあ、動けねえミーソさんよ、どうする?俺様が怖いか?」
アプリコットは、そう言いながら、ミーソに近付く。
「・・・・・化け物か、悪魔か、お前は・・・。私を凌ぐ魔力だと・・・?」
ぴしっ・・・
ミーソの仮面にひびが入った。
「魔界王の奥さんに化け物だの悪魔だの言われる筋合いはねえなあ。
まあ、これから今までの礼をしてやるよ。
・・・覚悟しな!」
そう言うと、アプリコットは魔法の詠唱を始める。
「エウリジータ・ヴァルナ・グェンヌーラ・ハスパルス・シェーラ!」
アプリコットが唱える寸前、
「アヌアル・ウィン・ステルジス!」
ミーソは魔法の壁を作った。
それでも、防げるものではなかった。
白い炎が、ミーソを襲う。
叫び声も轟音に消えた。
「うっわー、ちょっとやりすぎたか?何か魔力上がりすぎだなあ。
どれ、ミーソ神の素顔でも拝んでやるか。」
そう、アプリコットは伏して倒れるミーソを起こす。
「あ、以外と可愛い顔してんじゃん。」
「ぐ・・・そ・・その魔力は何だ・・・・・・・・貴様、本当に人間か・・・・?
ソルトの・・・ものでも・・な・・い。
その魔力は・・・魔族のも・・のだ・・・。
お前は・・何者だ・・・?」
「は?何言ってんだよ。俺様の魔力が魔族のモンだって?んなわけねーだろ。
シチュードバーグは神国だぞ。俺様は聖神の血を引いてんだぜ。
それを言うなら、聖神の力じゃあねえのか?」
「いや・・・・、確かに、魔族の・・ものだ。魔界王妃の私が言うのだ、間違いない。」
「???うーん、どっかで魔界人の血でも混ざってんのかなあ・・・。」
アプリコットは首を傾げる。
シチュードバーグは神国である。聖神ストロベリーの末裔が、代々の王家の血筋である。
アプリコットは、聖神ストロベリーの末裔として、王家の純粋な血を引いている。
だが、今のその魔力には、聖なる力はかすかにしか感じられなかった。
「ま、いいや。何かイイカンジだぜ〜。みなぎるってのはまさにこういうのを言うんだな。
さてと、牢屋もぶっ壊したし、ミーソはやっつけたし、あとは脱出だな。
ええと、こんだけ魔力上がってて、魔族の力があるんなら、
お前の力を封じてしまうのも案外出来るかもな〜。
魔界王妃ピーンチ!どうする?ははは!」
楽しそうに言うアプリコット。
「く・・・」
「えっと・・・なんだっけ、闇魔法の魔法封じる呪文・・・。
ああそうだ、思い出した。
・・・マ・グェン・ヴォウ!」
そう唱えると、黒い力がミーソに絡みつくように巻き付いて、ミーソの魔力は封じられてしまった。
「お前・・・闇魔法を使えたのか・・・。」
苦しそうな顔でミーソは、やっとアプリコットを見ている。
「まあ、魔法という魔法は、ざっと勉強してるぜ。グラン・セージの名に恥じないだろ。へへ。
さ、こっからお前さんは人質だからな。
放して欲しかったら、人間界まで案内しろよ。」
紅い瞳を輝かせながら、アプリコットは楽しそうに笑っていた。






「よし、着いた。」
プディングとラズベリーは、魔法研究所へ到着していた。
「プリンちゃん、ここのパスは、持ってるのかい?」
「あったりめーだろ。持ってなかったら来ねえっつーの。まあ、テメーは持ってそうだと思ってたんだけど、持ってるだろうな?」
「ああ、僕は顔パスで通るよ。」
「ああ、お前王子様だもんな・・・ちょっとオレがバカだった。」
そう言いながら自分のパスを取り出すプディング。
そして、中へ入る。
中へ入ると、騎士カシュー・ナッツとゼリーが、二人の方に振り向く。
「カシューさん!」
先輩の顔を見つけて、駆け寄るプディング。
「あらプディングじゃない。どうしたの?あ、・・・失礼致しました、ラズベリー殿下。」
カシューはそう、膝をついて一礼する。
「え?ラズベリー王子??あっっ、失礼致しました!」
ゼリーも慌てて頭を下げる。
「いいよいいよ。それより、何だか慌ただしいね。」
ニコニコと笑顔で、ラズベリーは出陣準備でもしているかの様な研究所内を見回す。
「はい、魔界の方の雲行きが妖しい様ですので、警戒しております。」
カシューは落ち着いた顔でそう言う。
「あのー、それに、アプリコット、関わってたりしません?」
プディングが単刀直入に聞く。
「・・・・・あなた・・・姫様のことで来たのね?」
「はい、まあ。」
「それでは・・・こちらへ。」
カシューは、表情を変えて、二人をとある部屋へ案内する。
「わーぁ♪プリンちゃんのカン、大当たりかな?」
脳天気なラズベリーの声。

そして案内された部屋には、クラム・チャウダーやポタージュ、マロン・グラッセがいた。
そして、魔族の女も一人、いる。
「あれー、久しぶりだなあ、チビのプディングだー。相変わらずちっちゃいなあ。」
陽気な声の主はクラム。
「るせーなクラム。どーせ148センチしかねえよーだ。」
「あ、そんだけしか無いの?ホントちっちゃ〜。」
ケラケラ笑うクラムに蹴りを入れるプディング。
「くぉら、クラム、背は低くてもオレは18お前は14!年上に対する礼儀を知らねェのか?!」
「いてててて、いいお兄さんが子供イジメていいんですか〜。」
「何じゃれあってるのよ、コドモね。」
ポタージュの一言で、我に返るプディング。
「おっとっと。で、オレはこの人のお供で、アプリコットのことで、えーと、何にもわかんないんスけど、何か解ってるんですか?
アールグレイさん達、ここへ来ました?」
プディングが、ラズベリーを指差したりしながら、くだけた言葉で聞く。
「アールグレイさんなら、今アプリコット様を助けに魔界へ行こうとしているわ。
ガナッシュさんもカフェラーテ王子も、プレッツエルさんも。姉も一緒よ。魔族の女性も一緒なの。
私、何も知らないうちに、途中まで一緒だったの。」
ゼリーが言う。
「まっ魔界〜!?」
「ひゅ〜♪」
目をひんむいて驚くプディングと、口笛を吹くラズベリー。
「謎の魔界人バケットによって、姫様ほどの方が、魔界へさらわれてしまって・・・」
知っているかぎりを、ゼリーは説明した。
「えー・・・アプリコットがさらわれるなんて・・・。信じられねーよ・・・。魔王のこともだけど。」
「それは我々も同じだ。」
グラッセが口を開く。
「プディング、お前は、まだあの剣を使えずにいるのか?」
さらに、言う。
「え・・・勇者の剣は・・・まだ・・・。」
思ってもみなかった痛いところを突かれた、そんな顔で返すプディング。
「勇者の剣て、なになに?」
興味深げにクラムが首を突っ込む。
そこへ、今まで黙っていた、魔界人の女が口を開いた。
「この子供が、勇者コークの末裔か。」
「あ、あんた誰だよ。」
冷や汗かきながら聞き返すプディング。
「この人はガーリックさんよ。魔族さんだけど、味方よ。色々協力してくれるの。」
ポタージュが、流れるさえずりの様に言った。
「知らなかった!プディングって勇者の血引いてたんだ!だから強いんだね。納得。」
きらきらした瞳でクラムが言った。
「血ィ引いてなかったら強くないみたいな言い方すんなコラ!」
再び蹴りを入れるプディング。
「痛いってば!暴力反対〜!」
「場をわきまえなさい!」
カシューに怒られる二人。
「ご、ごめんなさい。」
「失礼しました・・・。」
「とにかくだ。プディング、せめて剣を使えるように、毎日努めろ。
聖剣が使えるだけで、対魔族戦でもかなり違う。」
グラッセは静かに強く、そう言う。
「はい・・・。」
プディングは、首に下げた剣の形をしたペンダントに手をやった。
それこそが、彼が未だ使えぬ、勇者の聖剣なのだった。





こちらは、アールグレイ一行。
シュガー神は、とりあえずひっこんでいた。
ブレッドが必死に足止めをしようとも、彼等はアプリコットを助けに、魔界へ行くつもりだ。
後ろでパエリアも、一行の姿を見ていた。
「魔界の扉は、ヨーグル島にあるわよ。」
そう言ったのはカルボナーラ。
「あの、魔物の巣窟と噂に名高い・・・。」
とガナッシュ。
「どうしても行かれるのですか?」
ブレッドは冷や汗をかいている。
「アプリコットを助けたいんだ。」
カフェラーテの瞳は、婚約者を心から心配していた。
「・・・あのさ。」
「どうしたアールグレイ?」
珍しく心底真面目な表情で冷や汗をかくアールグレイ。
こんな顔をする相棒は珍しいなと思いながらガナッシュが返す。
「あのな、ただ闇雲に進んで助けに行っても、駄目だと思うんだ。
ここは、策を練るとか、戦力をどうにかするとか・・・」
自信なさげながら、真面目に言うアールグレイ。
「アールグレイがそんなもっともなこと言うなんて・・・」
今はシュガーではないミントが、驚きの表情。
「どういう意味ですかミント様・・・。」
「いや、確かにそうなんだ。そう思う。ヨーグル島に行くこと自体、今の俺達だけでは不安があるよ。」
と、ガナッシュ。
「何でしたら、研究所秘蔵の精鋭部隊を連れて参りますか?」
ロゼが呑気な口調で言った。
「グラッセ隊長の特殊部隊ですね?」
プレッツエルが、妙に嬉しそうに言った。
「まあ、その辺を。彼等のことだ、ゼリーから話を聞いて、何か考えているかも知れません。」
「そんな特殊部隊がいるんだ?」
もとの脳天気な声で、アールグレイは言う。
「ええ。少数ですが、優秀ですよ。」
と、ロゼ。
「でも、ここから研究所まで戻るのは、・・・時間が惜しいよ。」
カフェラーテは焦り気味だ。
「いえ、大丈夫です。待って下さいね。」
そう言って、なにやら荷物の中を探し始めるロゼ。
「ああ、あった。これですこれ。」
「なんです?それ。」
プレッツエルは、ロゼの手の謎の板きれを見て首を傾げる。
「研究所直通の魔法通信アイテムですよ。
今はカシューに持たせてあるはずですから。」
「姉さんに?」
カシューはプレッツエルの姉である。
ロゼは板きれに魔力をこめる。ロゼの魔力は不安定だったが、それでも使えるようだ。
トゥルルルルル・・・
そんな音がする。
ロゼは板きれ・・・いや、通信アイテムを耳と口に近づける。




ぴぃ〜ろろららら〜〜〜ぴろぴろら〜・・・・・
静かだった研究所の一室に、謎のメロディが響く。
「何の音?」
プディングはカシューの方を見る。
カシューは板きれを取り出すと、耳と口にあてるようにし、
「はい、カシューです。」
と答えた。


「ああ、カシュー、私です。
ちょっと、ヨーグル島まで遠征しますよ。グラッセの部隊を・・・」


「はい、はい、・・・・・はい、こちらも、ゼリーから話を聞きまして、出陣の準備をしています。
はい、はい・・・・・・」
しばし、カシューは、板に向かって話していた。
ツーツーツー・・・
そんな音がして、端から見たら謎の、ロゼとカシューの会話が終わった。
「何なんだ?何その板。」
プディングはきょとんとしている。
「魔法の通信アイテムだよ。遠くの人と話せんの。博士が作ったんだよ。
ロゼ博士ってさあ、そーゆーアイテム作るの上手いんだ。」
と、クラムが説明。
「グラッセ、ヨーグル島から、魔界へ渡るわ。」
「解った。」
「プディング、もっとびっくりするもの見せてあげるわ。
ここから、転移魔法装置で、カラメルの街まで転移よ。」
「げ、カラメル!?」
プディングが嫌な顔をする。
「君の故郷だねvご家族に僕を紹介してね。」
ラズベリーはここぞとばかりに抱きつく。
「くっつくなっ!・・・まあ、仕方ないか・・・アプリコット・・・。
何であんなに無敵なヤツが、囚われたりするんだ・・・・・・。信じられねえ・・・。」
「あなたと姫様は、無二の親友だったわね・・・。」
カシューが、目を細めて言う。
「うん・・・。」
「カフェがやきもち焼くんだよね。君たち仲良しだから。友と恋人は違うって、
僕らで証明しようよ、プリンちゃ〜んvvv」
アプリコットの心配をするプディングの油断をついて、ラズベリーはプディングを
後ろから羽交い締め。
「だーーー!!!くっつくなっつーの!!!」
「緊張をといてあげようと思ったのにぃ。」
「にぃ。じゃねーよ!」
緊張感は、確かに和らいでいた。



「のう、アンジェリカ、アプリコットとミントは元気じゃろうか・・・。」
シチュードバーグ国王カマンベールは、妻の王妃アンジェリカに話しかけるは馬車の中。
「元気じゃなぁい?アプリコットなんて、きっと親の居ぬ間に羽を伸ばしているんじゃなぁい?」
王妃アンジェリカは、自分のとんがった耳に手をやりながら、適当に返事する。
「そうかのう・・・。寂しがっておらんだろうかのう・・・。わしは寂しくてしかたないぞ。」
「帰れるんだから、あと3日分の旅路を我慢なさぁい。」
アンジェリカは、尖った耳に指をあて、窓から外を眺める。
この、王妃こそ、魔王の血を引くもの。
アンジェリカ自身も知らぬ事。
聖神ストロベリーの末裔。魔族の血。精霊神の生まれ変わり。
アプリコットもミントも、未だ知らぬ運命・・・。
そして、あと3日で国王が帰還することも、大臣ジンジャーの知らぬ事・・・。
どうする、大臣。


続く。

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はい、いつもより長めの7話でした。
今回は真面目でした。割と。
ようやく役者も合流してきましたよ。
今回精霊神達は大人しかった。
みんなの知らないところで、ミーソとアプリン形勢逆転。
これからどうなる!
これ以上は長くなるので8話へ。
どうする、大臣。(笑)
今回は挿絵付き。


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