サンドウィッチ・シチュエーション




第一話 おにぎりの神は自信が持てない。



僕の名前は、河合ユーキ。高校1年。
自分でも、背は低いし子供っぽいし、男としては全然、自信ない。
あ、いやその、何でそんな事って、思うよね、実は憧れてる先輩がいて。
美人で格好良くて、とっても綺麗なのに強い人。僕じゃなくても憧れるよ、天宮先輩は素敵だ。
あ、好きとかまでは行かないんだよ、ただ、憧れてるだけ。
それに比べたら、僕って、ボーっとしてて冴えなくて、得意な事も特にないなあ。
うーん、おにぎりをきれいに握る、くらいかなあ。そんなの、どうでもいいよね。

「河合、そんなトコでなにやってんだー?」

あ、海上先輩!
海上(みかみ)先輩。僕の相談とかによく乗ってくれる、お世話になってる、また別の、男子の先輩、
3年で、背が高くて、イケメンで格好良くて、優しくて、僕とは全然、違う格好いい先輩!もちろんモテるし、僕とは雲泥の差だと思うよ。
相変わらず、サンドウィッチを食べてるなあ。
海上先輩は、サンドウィッチが好きみたいで、自分で作って、学校に持ってくる。
僕はサンドウィッチは苦手だったんだけど、海上先輩の作ったのを貰って、本当に美味しくて、苦手じゃなくなったんだ。

「何でもないんだ、風に当たってただけですよ、先輩こそ、屋上でお昼ですか?」

「ああ、今日のカツサンドはなかなかの出来なんでな、河合にもやろうかと思って、実は探してた。」

わあ、カツサンド!すごいな、とんかつ揚げるところからやったのかな、先輩はサンドウィッチはなんでも作りそう。

「美味そうだろ?これは是非、おにぎりの神にも食わせたいと思ってさ。実際美味いから。」

マジで美味しそう・・・って、おにぎりの神っていうのは、僕の事をそう呼ぶ人が何人かいて、まあ、きれいに握るから、らしいんだけど。
それなら先輩はサンドウィッチ神じゃないかな?

「今日は何のおにぎりなんだ?カツサンドやるから、河合のおにぎりひとつくれ。」

いつも、こうして、交換会みたいになる、今日はベタだけど、僕の好きな鮭のおにぎりだよ、カツサンドのインパクトには、負けるかな、やっぱり。

「あー、美味え!この三角のきれいな形といい、具の焼き加減塩加減と米の塩加減、握り具合も最高だな、固すぎず柔らかすぎず、流石神。」

「あ、ありがとう、そこまで言う程じゃ〜、カツサンド美味しいです!」

先輩、いつもこの時嬉しそう。
よくわかんないけど、この交換品評会みたいになる、お昼は好きかも。


あ・・・
天宮先輩だ。天宮りあ先輩、3年。海上先輩とはクラスが違うけど、会話はする事はあるみたい、でもキョーミ薄で、なんにも教えてくれないし。
天宮先輩も屋上で、お昼なんてあるんだろうか。
一緒の女子は、北本さん?
北本ヒスイさん、実は僕と同じクラス。仲良かったのかな。

「おら、口から落ちるぞ。」

あ、ボーっと見てたら、パンが口から落ちるところだった、し、失礼しましたっ!

天宮先輩と北本さんの姿はどこかへ行ってしまってた。

「天宮、ね・・・」

海上先輩?

「お前さ、・・・天宮は、やめとけ。」

え?

「天宮は、なびかねぇぞ、誰にも。切ない思い、するだけだ、他にしとけよ。」

ええ?

「先輩、そんな、心配しなくても、そんな意味じゃないから!」

「違うってのか、じゃ、あの眼差しはなんなんだよ?」

それは、僕はこの通り何のいいとこもない、冴えないチビで、自信もないから・・・ああいう自信持っていて、格好良くて強くて、優しくもなれる、すごいなって、憧れてるだけ。
あんなふうになれたらいいのにな、って。

「河合、お前いいとこないとか、言うなよ。たっくさん、あると俺は思うぞ。おにぎりうまいし。それに・・・あ、イヤなんでもね。」

先輩・・・
そう言ってくれるの海上先輩だけだよね、ありがとう、何を言いかけたんだろ。
でも、カツサンド美味しかったし、励ましてくれて、いつも感謝してるんですよ。
おにぎり握るのしか得意なことがないのも寂しいけど、海上先輩がおにぎりをすこく幸せそうに食べてくれるの、なんか嬉しいんだよな。
だから、ちょっと感謝をひとつまみ、入れてます。

でも、なびかないって、どういうことだろ、興味、ないとか?恋愛に。もしかして、もうお相手が?
だとしたら、僕なんて出る幕もないし、そういう意味ではないつもりだし、海上先輩は心配してくれたんだ、僕が傷つかないように。

「先輩、明日のおにぎりの具のリクエストありますか?」

「あ、リクエストなんてしていいのか?じゃあ、おかかにぎりで!」

「案外ベタなので来た?それでいいの?」

「この間のおかか、めっちゃ美味かったからな、また食いてーなと。じゃあよ、俺はお前の食いやすそうな、フルーツサンド作ってくるからな!」

フルーツサンドも美味しそう。
おかか、感謝増し増しで握りますね、いつも僕を元気にしてくれる、心配も、励ましもくれる、そう、海上先輩みたいな、格好良くて自信も持てて、優しくもいられる、イケメンな男になりたかったなあ。









第二話 フルーツサンドな片思い




俺は海上アオヤ。只今切ねえ片思いの端っこにいる。
俺の好きなヤツってのは、そりゃあ、可愛いし優しいし、珍しいくらいピュアな感じがする、放っておけない、おにぎり握らせたら神だ、そうだ、河合ユーキだ。
あいつマジで自信ないけど、そんなことは微塵もない!俺から見たらいつもピュアなキラキラを振りまいてるように見えるぞ、おにぎりホント美味いし、嫁に来てほしいとか思うぞ、
ああ、男だけどさ、可愛いんだ、好きでたまらないんだ。
別に俺は、男が好きなわけじゃないんだけど、ユーキは一目惚れなんだよな、あの、キラキラオーラの可愛い笑顔に、やられた哀れな男が、俺だ。

ところが、ユーキはどうも、天宮りあが気になるみたいで、俺は危機感を感じてないこともなくてだな、そりゃ、ユーキも男だ、美人に憧れることもあるだろ、でもな・・・
俺は知ってんだ、天宮が他のヤツには絶対なびかない事を。
天宮は、北本ヒスイと出来上がってるからな。
偶然、見ちまったワケだよ、女と女のキスシーンをさ。
ものすげえ口止めをされてるので、秘密なんだろ、でもあんなにいつも一緒だと、バレんの時間の問題じゃないのか。

ユーキが、天宮に憧れることもわからなくはない、見た目は美人だ、目立つし、何でもやってのけるようなすげーところは確かにあるんだろ、カッコイイとか言われて。
なびくはずも、天宮が浮気するようなヤツではないのもわかっちゃいる、でも、よりによって。
俺と天宮は、まあ、あんまり仲が良いとは言えねえから、なんで!ユーキはその天宮を気にしてんだ!と内心思うワケだよ。
切ねえ思いなんて、俺だけで十分だし、ユーキに悲しい思いさせたくなんてない。そこまでじゃないとは言うが、憧れてるってことは・・・。

今日は、ユーキの手製神おにぎり、おかかを食える!
ので!俺はフルーツサンドを愛を込めつつ作った。
ちょっと甘めの、ユーキ好みの仕上がりな筈だ、あいつ甘党だからな。
ってか、学校でユーキとか呼べないし。心の中で名前で呼んでるとか、河合には言えねえよ、まだ。

昼、楽しみな時間だ、河合の神のおかかにぎりと、俺のフルーツサンドの交換食事会みたいに見せかけて、唯一あいつとデート・・・じゃねーけど、二人でいられる一番幸せな時だ。

「先輩、今日はちょっと失敗かも、ごめんなさい。ご飯の水加減間違えたみたいで、なんか少し固めに炊けちゃって。おかかは大丈夫だと思う、お米が昨日と違うんで間違えちゃった・・・」

しょぼーん、としてるのも可愛いから、俺も重症だよなあ。
お前なら、その固めの飯も、うまく握るんだろ、勉強したわけでも研究してるわけでもないのにな、その天性のおにぎりセンス、すげえよ。

リクエストした、おかかのおにぎりを、俺は頬張った。
美味い!
おかかの味の加減とかもすげー美味いし、米も固いとか思わないな、海苔まで美味い。
何をどうしたら、こんな最高おにぎりが出来るのか、手がおにぎりに適してるのか?
って、どんな手だ、河合の手は男の割に少し小さいけど、それもなんか可愛い、やっぱ重症。

「良かった、美味しそうに食べてもらえると僕も嬉しくなります。」

「ホント、美味かった!ごちそうさま。って、俺もフルーツサンド作ったの持ってきた、悪い悪い、お前も腹減らしてるのに、先に夢中で食ってしまった、わりー。」

「あははっ、美味しく食べてもらえて良かった!」

ハァ、お前がそうやってキラキラに笑うと、俺も幸せになるんだぞ・・・
自信持てたら、いいのにな、でも、笑顔可愛いから自信持て!なんて言えないだろ。

「おいっしー!先輩、フルーツサンドめっちゃ美味しい!甘いのに果物の爽やかなのもあって、めちゃくちゃ美味しいです!」

キラキラオーラが星を放つ。その笑顔は俺の中で最高の褒美であり、同時になによりのごちそう。
あああ、ちょっと天宮と北本が羨ましくなる、俺はユーキの可愛いピンクの唇に、サンドウィッチ以外の、俺の唇を重ねられる日が来るのだろうか。
いつまでもこんな、ジリジリした片思いしてる気はないけど、ユーキ、ノーマルだし。
俺だってユーキ以外なら(ありえないけど)ノーマルだから、わかる、だろ。

甘い中に酸味のある、爽やかなフルーツサンド。
まさにこれよ、片思い。
辛いのとか苦いのとか入ってなくて良かった。




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