Symmetrical one pair 第一話 「プロローグ」


かつて、ナジェリ王国が栄えたアトレシアの大地。
そのナジェリ王朝が滅び、三百年ほど経つ。
赤みを帯びた金の髪と、紅の瞳が一族の外見特徴であった。
ほど、長きにわたりその大地に君臨していたそのナジェリ王国の最期は、それは壮絶であったと言われる。
王子ロードリアスが、王家の秘宝である、「破天の杖」を用い、それを止めようと二人の姉もまた、秘宝たる剣を用いて戦ったと・・・
そして、その王国は滅びたと・・・。

その後、英雄王と呼ばれる勇者アステロスにより、アトレシア王国として、新たに生まれ栄え・・・三百年ほど経った。
今もアステロスの子孫が、アトレシア王国を治め、他国の紛争なども見やりつつではあるが、平和に栄える。
女王ジェアライドのもと・・・。

ジェアライドには子が居らず、時期国王候補として上がるのが、前国王の長子、王子アクリウス。
妹のメルヴィーネ王女は腹違いであるが故、候補としては低い位置に居る。
そして、唯一の前国王の正妃の娘である、エルティア王女を立てる動きもある、が。
それは政局を我が手にと仕組む物達によるわずかな動きではあった。
実際、エルティア王女は、城下町の神殿に隠れ住んでおり、その権威は無いに等しかった。

ある日、そんな一応の平和を破る、事件が起こった。
アクリウス王子の食事に毒が盛られた、というのである。
アクリウスは命は取り留めようも、寝所から動けぬという事態であると報じられる。
口々に噂は広がる。・・・エルティア王女を立てる者の仕業だと・・・。

エルティアは何も知らなかった。日々、平穏に神殿の女神官達などと暮らし、野心など抱くこともない・・・
たった14歳の何も知らぬ少女なのだから・・・。


そのエルティアの側に、いつもいる女剣士。
名を、ラミナスという。一見は赤みのある金髪の、18歳ほどの美しい娘。
だが、その剣術の腕はそれは卓越している。いつでもひとひらの隙もない、凛とした女剣士である。
そのラミナスが、何故か・・・ずっと側で、エルティアを守り続けている。
エルティアにとっては優しく強い姉のような存在であり、心のよりどころである。

その平和を破るのは誰ぞ。
アクリウス毒殺の疑いの噂が、王城を漏れて町へ広がる少し前、お忍びでエルティアのもとを訪れたのは、姉に当たるメルヴィーネであった。
お逃げなさい、そう告げに。
メルヴィーネは優しい姉姫であった、あまり顔を合わすことはなくとも、王女二人には、姉妹愛が芽生え温められている。
「お姉様・・・!」
お忍びの姉姫の訪れに、エルティアは嬉しそうにしていたものだが、知らせはけして・・・嬉しいものではなくて。

「ラミナス、エルティアを連れて逃げてください。」
メルヴィーネは、密かに魔法の杖を持ち、その秘められた術により、ある程度の遠距離までエルティアとラミナスを瞬時に移動させると言う。
「本当はもっと遠くまで出来ればいいのですが、私の腕では、あまり遠くへは飛ばせられないの。
アンデリー邸・・・国の北、女王陛下の妹君の治める館の近くまでなら、お送りすることが出来るわ、どうか、どうかそこまで逃げてください。」
エルティアの不安げな表情を見て、ラミナスは大丈夫、と優しく声を掛け、メルヴィーネの案に従うことにした。
「アンデリー邸の領主ジルヴリーデとは面識があります、私が姫をお守りいたします。
・・・エルティ、心配するな、私がいつでも側にいる、恐いだろうが・・・一緒に、な。」
ラミナスは、エルティアを優しく元気づける。
「わかったわ・・・でも、でも私・・・お兄様は大丈夫なのかしら・・・そちらも心配だわ。」
「エルティアは優しい子ね、兄上はお命に別状はありません、あなたは、今はここを離れて欲しいの、恐いでしょうけれど・・・お願い。」
ラミナスとメルヴィーネの言葉は、エルティアをなんとか決意させる。


走った、草原と樹木とを駆け抜けた。
全く・・・野盗集団とは・・・このか細い心の少女になんという仕打ちかと。
ラミナスは片手でエルティアの手をしっかりと包み、もう片手で白刃を走らせる。
メルヴィーネの魔法の杖で、森の中まで飛んできて、不運にも娘二人とにやついた盗賊団に行く手を阻まれた。
が、そのような輩達に負けるような剣士ラミナスではない。
エルティアに出来るだけ血を見せぬよう、駆け抜けて逃げ延びた。



アンデリー邸は平和だった。
北の片田舎、レクシア地方ののどかなたたずまい。
「ええと・・・ナジェリ王国の・・・」
茶の髪の少年、名はジェミー。屋敷の手伝いをして暮らす、平民の少年。
まだほんの14歳、騎士見習いとして共に働く少年カークと、男勝りな少女ロゼットとは良い友達だ。
「お前、よくそんな小難しい歴史なんて勉強するよなあ、好きこのんでさ。」
カークがぶらぶらと歩きながら言う。
「まあ、カークだったら3秒で居眠りしそうだね。」
ロゼットは笑いながらそう言う。
「あんだと、この野郎。お前だって勉強なんか好きじゃねーだろっ!」
「そんなことないよ、あたしは毎日寝る前に勉強してるもん。」
「うっそ、寝る前かよ、そりゃ確かにいい子守歌だな、お前なんて読んで1ページで寝てるんじゃねーのか?ははは。」
「ちゃんと決めたところまで読んでるよっ!」
いつものような、2人の口喧嘩。
「もう、喧嘩はよしなよ。」
ジェミーは落ち着いて読めないと、いつもながら困ったものだなあと、呟いた。


ジェミーが屋敷内の掃除などをし、騎士見習いのふたりは、学びの故での門番をしていた。
夕暮れ時、そろそろ食事の美味しそうなにおいがしてくる頃で、カークは暇そうに伸びをして、ロゼットはそれを見て笑っている。
そんな平和なアンデリー邸に、しばらくぶりな女剣士と、涙ぐむ瞳が不安を表す少女が、ようやく、到着した・・・。




第2話

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