真実の鏡と最高のお宝【カミュ主海賊王パロ】

北海を根城に、ロトゼタシアのすべての海を制覇する、海賊王。
その名をカミュ。
世界中のお宝は彼のもの。どんな宝も、彼の手にかかれば、その在り処を見つけられ、彼の手におちてゆく。大海原のトレジャーハンター。

そんな海賊王カミュが、その時目をつけていたお宝、真実をうつす鏡。
それは既に彼の手にあって、掘り出されて土汚れを落とされているところであり。
一見ただの手鏡にしか見えない、そのお宝。

「ねえアニキ、それほんとにすごい鏡なの?ワタシにはただの鏡にしか見えないよ〜」

カミュが磨く鏡を横から見ながら、デクが言う。

「デク、お前の物を見る眼、くもったか?コイツは確かに、真実しかうつさねえという、伝説のお宝だぜ?この鏡は、いわば嘘つかねえ正直者さ。まずは磨いてやらねーとな。」

デクには、商才があって、物を見定める眼に優れる。だが、そんなデクでも、そのお宝はただの鏡にしか見えなかった。

カミュは、磨いた正直者、いや真実をうつす鏡をそのまま、海賊船の彼の船室まで大切に持ち帰った。

「さて、試してみたいモンだな、真実しか見せないんだろ?確か呪文は、アレだ。」

海賊王は、思い出すように、妙な呪文とやらを唱えてみる。

かがみよかがみよかがみさん・・・

これで本当に真実が、知りたい事が何でもわかるのだろうか、まあ、試さないことには埒が明かねえ。しかし妙な呪文だぜ。そう思いながら。

「オレにとっての最高のお宝を見せてくれ、どこにあるのかも教えてくれよ。」

カミュは、知りたかった願いを鏡に向かって問うてみる。
真実の鏡は、一度真っ白に光り・・・

ひとりの、少年の姿をうつした。
亜麻色のサラサラの髪をした、中性的とも言える顔立ちの、それはかのユグノアの国の王子。

「王子、イレブン?この王子さまが、オレの最高のお宝を持ってるとでもいうのか、正直で嘘つかねえ鏡さんよ・・・」

てっきり宝物がうつし出されると思っていた、うつされたのは美しい王子。
カミュは、何故か釘付けになるように、見入ってしまっていた。

一目惚れ。とは言うが。

待て待て待て。カミュは心の中が熱くなるのを感じる。お宝って、まさか。
そういう、意味か?
待て待て待て、王子だろ、可愛い顔してるが男だろ、王子をめとれとでも言うのか鏡さんよ。
確かにオレにとっての最高のお宝と言った、そういう意味で来るか?マジか?
大海原の海賊王が、鏡の向こうの可愛らしいくらいに微笑む王子さまの姿に、確かに惹かれていた、鏡の向こうだというのに。

「アニキ〜鏡はどうだったの、気になるよ〜、あれれ?」

船室から出たカミュは、決めた、と独り言のように吐くと。

「決めたぜ、これからユグノアに向かう!そこに、オレの大切なモンがあるみてえだ。嘘つかねえ鏡は大変なモンうつしてくれたぜ。」

☆ ☆ ☆

王子イレブン、16歳。その日は成人する日の誕生日。
今日から彼は、もう大人。
そう、カミュが見たのは、誕生日を祝う日の、笑顔に包まれた王子の姿。

美しい髪をサラサラと風になびかせて、イレブンはひとり、自室のバルコニーで、パーティの疲れを癒やしていた。

はあ、昨日はみんなが僕のことを祝ってくれた、でも大人になった途端、お后候補とかお見合い話とか、お世継ぎの話まで、飛躍しすぎだよ。
僕にだって相手を選ぶ権利が・・・そうだなあ、そんな人がいるのかなんて想像もつかない。

イレブンは気分転換のためにも、読みかけの本に手をかける。
お伽話の本。その中には、まさにカミュのような海賊王が登場し、真実しかうつさないという不思議な鏡が登場する。

いいなあ、海賊王。自由でかっこよくて、そう、真実の鏡には海賊王の運命の姫がうつされて、海賊王は姫をさらいにお城までやって来て。
自由でロマンがあって、僕はこういうお話は好きだな。

イレブン王子が部屋に戻ろうとしたその時だ。

風が吹いた。

「!」

イレブンの前に、突然現れるのは、月に背を照らされた、男の影。
顔はよく見えない、驚きはしたが、イレブンは不思議と怖くも危機感もなかった。

「誰?ここは三階だよ?どこから来たの」

イレブンは顔が逆光で見えない男に話しかける。男はバルコニーの手すりに足を掛け、なんとなく笑ったような気がした。
男は手を、イレブンに差し出すと

「迎えに来たぜ、オレの最高のお宝、王子イレブンで間違いねえな」

む、迎えに来た?
イレブンの頭には、先ほどの物語が浮かぶ。

「きみは誰?・・・まるで物語の海賊王みたいだね。」

「物語じゃねえ、本物の海賊王、オレの名前はカミュ。まずは、覚えてくれよな。」

カミュ、と名乗った。海賊王だって?本当に?

「海賊王カミュ?・・・何か、聞いたことがあるな、北海のクレイモランを根城にした凄い海賊王がいるって。きみが、そうなの?」

そうだ、とカミュ。
カミュはユグノア城にやすやすと忍びこみ、王子の部屋のバルコニーに、こうしているわけだ。
そんなことをやってのけるなら、そうなのかも知れないと、王子の心はわくわくとしてきていた。

カミュの方は、実は動悸が抑えられずにいた。
ドキドキドクドクと、心臓が高鳴るような心拍数の速さ。
この、目の前のお綺麗な、王子さまがオレの最高のお宝なのだと、鏡が示した。
わかるような気がする。自分は目の前のお宝、イレブンに、並々ならぬ何かを感じる。
なんにも知らない相手なのに、この王子にはとても興味がある。
正直、惚れたかも知れねえ。これはそういうことだと。
カミュの天性のカンがいう、間違いないと。

「ねえ、海賊王カミュ、良ければ中へ。ここじゃそろそろ風が冷たくて、立ち話も何でしょう。きみの顔も見えないし。」

屈託のない優しげな笑顔でイレブンは、カミュを部屋に誘う。

「ははは、いいのか、オレはお前をさらいに来た海賊王だぜ?怖がりもしなきゃ、迎え入れてさえくれるってのか」

「さらわれてあげるかどうかを、決めるためにね。」

イレブンはドアを開き、カミュを自分の部屋の中へ招く。
灯りがついて、ようやく、カミュの顔が見える。

ドキ・・・
心臓が高鳴るような思い。

「びっくりした・・・海賊王っていうだけあって、・・・カミュはかっこいいんだね、僕とは大違いだ。」

なぜだか顔が火照り、見ていたいけど見られないような、気恥ずかしさをイレブンは感じた。
カミュはイレブンの頬に手を添えた。
イレブンの体がびくっと震える。

「何だ、怖くなったのか?震えてるぜ。王子さまって言うが、やっぱり可愛いな、お前。」

「可愛いはよしてよ。僕はもう、16だし大人なんだ、大人の男に可愛いはないだろ」

そういうイレブンがますます可愛くて、カミュは肩をふるわせながら笑った。
なにがおかしいと、イレブンが怒った顔をするも、それすら可愛い。

もう、どうせ童顔で女顔で子供だよ!と。
それすら可愛らしい。やれやれ。
頬の手をはらわれてしまったが、カミュの心がだんだん、固まっていく。
カミュとて、会うまでわからないと思っては、いたから。

「まあいいよ、海賊王。」

「カミュでいいさ」

「そう、じゃあ僕のことはイレブンでいいよ。お茶くらいは淹れるよ、迎えに来たって、どういうことなの?」

カミュは懐から、例の鏡を取り出した。そして、これは真実の鏡で、最高のお宝をうつして欲しいと言ったなら、イレブンが見えたのだと語った。
イレブンの瞳は輝いた。なんてこと、まるで本当に起きた、あの物語そのもの。
興味ありそうだなと、カミュはイレブンに、嘘はつかないその鏡を渡して持たせる。

お前も聞いてみてくれ、お前にとっての最高の何かをな、と。

「これが、海賊王が、カミュが見つけた宝物なんだ・・・じゃ、じゃあ、どうしたら真実を見せてくれるの?」

キラキラと海色の澄んだ瞳をきらめかせ、イレブンはわくわくと答えを待つ。
そして、あのおかしな呪文を聞かされ、唱えてみる。
かがみよかがみよかがみさん・・・

「僕をここから連れだしてくれるような、最高の・・・運命の人、教えて!」

イレブンの期待通りの人が、目の前の海賊王と同じ姿が、カミュがうつる。
胸が熱くなる。この海賊王を、イレブンは何も知らないのに、肯定して欲しい、僕をここから連れだしてくれる、物語なんかじゃない海賊王が、運命の人でいいと。

出会って間もなかった、だが、鏡はきっかけでしかない。
二人は既に惹かれ合っていた。
何も知らないけど、魂が共鳴するような、一番会いたい人に会えたような、言い知れないものを感じていた。

「ここから、出たかったのか?」

「うん、昨日誕生日だったんだ、成人した途端、色々面倒なことばかり。知らないお姫様連れて来られて、ある時いきなり婚約とかもあるかも。そんなの、嫌だよ、僕は・・・自分で好きな人選びたいし、出会いたいよ。」

それはそうだなと、カミュは笑みを浮かべて頷いた。
で、鏡は誰かをうつしたのかと聞く。

「カミュ・・・きみの姿がはっきりと見えたよ。こここ、これって、カミュが、僕の・・・」

「ヘヘッ、決まりじゃねーか!」

カミュはイレブンを突然抱えると、なに?なにするの?という声にも動じず、イレブンの寝所へ運んだ。

「オレはお前を見て、お前はオレを見たんだろ、決まりじゃねーか!ここから、連れ出せるのはオレくらいだぜ、なあ・・・イレブン、お前はオレをどう思うんだ?」

「えっ・・・そ、それはその、カミュこそ僕なんかでいいの?僕はその、男だし子供っぽいし、その、ぱふぱふとかいう流行りの色事もしてあげられないし!」

それがどうした、とカミュは放った。笑いながら。

「オレは鏡はきっかけを、お前の居場所を教えてくれたのに過ぎねえと思ってる、黙ってたらオレたちは会えないからな、オレはお前が気に入ったぜ、可愛いしな。惚れた宝は離さねえし逃さねえが、お前の気持ちは尊重する。」

カミュの瞳は真剣で、真摯だ。
ベッドに横たわらされながらの告白は、イレブンの鼓動を早め、火照るようで。
恥ずかしいけど、答えなきゃと、イレブンはカミュの首に腕を回した。

「連れて行って、大海原でもどこでも。僕、カミュのこと、好きになっちゃったみたい・・・」

その言葉をしっかりと受け止め、カミュはにやっと嬉しそうに笑うと、唇を重ねた。

「待って、待って、まだ会ってから一日目だよ?そんな、そんなこと、待ってカミュ、恥ずかしいから・・・」

味見もさせてくれないのかと、カミュが言えば。
連れ出してくれてから、カミュのベッドでならいいよ、とイレブンは真っ赤になりながら言うのだった。

☆ ☆ ☆

海賊王は、とんでもないお宝を連れだして、それは楽しげにすいすいと、けして警備薄ではないはずのユグノア城を抜けだして、一ヶ月。

海賊王の花嫁、お宝もといイレブンは、大海原の生活にも慣れて、愛しいカミュとの生活に自由と幸せを胸いっぱい感じている。
カミュとて同じで、思った以上の、優しくて心根は強く、可愛いところのある最高のお宝、相棒にして伴侶としたイレブンが愛おしくてたまらない。
あれ以来、真実の鏡は何も答えなくなったが、きっかけをくれた、その鏡は大切にしている。鏡の力はもう、使わなくてもいいから。
ただ、まだ、約束したような、「初めての一夜」みたいなことを、未だ恥ずかしがってさせてくれないイレブンで。

「なぁ、今日はいいよな?いつまで待たせるんだよ・・・」

「えええええ、それはその。恥ずかしいんだもん、僕、そういうことしたことも、知識もないから!」

「そうだよな、お前ぱふぱふが本来何するのか知らなかったくらいだもんなあ。・・・あの時言ったよな?オレのベッドでならしていいってよ。」

そんなに、そういうことしたいの、と恥ずかしそうに問えば、当たり前だろと返ってくる。
カミュの妹のマヤは、それを面白がって見ている始末。

「兄貴、きっかけ作ってやれば?イレブン初心だしさぁ、まずは二人きりでムード高めてさぁ。」

「ムード高めてって、言われてもな。」

攻めろ兄貴、あの鏡を見てからの行動力と勢い思い出せよ、なんて言われる。

そのために、カミュはイレブンと二人きりの夕食を用意した、自分の船室、今は一応、二人の愛の巣。のはずの。

「美味しい、これはダーハルーネのスイーツ?デザートまで待てないよ」

好きなだけ好きなときに食えよと言いつつ、カミュはイレブンの髪を撫でる。サラサラで柔らかく艶もハリもあるその、お気に入りの髪を撫でて、食べるのを止め照れる顔を嬉しそうに見て。
食べられないよと、照れ隠しを言うイレブンは可愛らしい。

「マジでお前はオレの最高のお宝だよ。そうだ、お前の好きだった物語の続きって、どうなるんだ、結局?」

「ん・・・あの本は、お姫様をさらった海賊王はお姫様と結婚して、幸せになって、その・・・」

まるで本当にオレたちだな、とカミュ。で、幸せになってどうしたんだ?と聞けば
続きは読めなかったと言う。

「そうか、なら、続きは、オレたちのこれからはオレたちで作ろうな。」

「もう、かっこいいことサラッと言うんだから。でも、そうだね。」

髪を撫でながら、耳元も撫でる、耳元で囁く、今夜はいいよな?
・・・いいよ、優しくしてくれるなら、と。

肌が触れ合うのは、初めてで、唇だけ何度も重ねてはいたけれど、深くまではなかった、
初めてのことをまずは優しく、愛しげに抱いて。
まるでお伽話の物語に沿うように、鏡に導かれたけれど、これからの二人は二人で作る。
部屋の壁に飾られた真実の鏡が、二人の愛をうつしていたけど、イレブンにそれを言えば恥ずかしがるだろうから言わないでおく。
何も不思議なことをしなくなった鏡でも、やはり真実の鏡は真実の愛をうつしていた。

やがて、イレブンはカミュと共にユグノアに帰国することになる。
王子が謎の失踪というならばそれは、大変なことだ。
帰国し、イレブンはカミュと共に国を治め、海賊王の築いた海路や交易の道なども活かし、
大国として、幸せに治め、二人もいつまでも幸せに愛し合っている。
イレブンは、帰ってから物語の続きを読んでみると、海賊王と姫君もまた、国に戻り海賊王が世界を治めている結末だと知った。
ちょっと違うけど、予言されてるみたい、でも少し違う。

「ねえ、本当に良かったの?海賊王やめちゃって。」

「オレはお前といられればなんだっていいさ、無駄になってもないだろ、それに、オレは最高のお宝を手に入れちまったからな、お前以上のものなんて、オレにはないからな。」

「えへへ、僕も、カミュ以上の人なんていないよ、大好きだよ。」

海賊王に連れ去られ、帰ってきたユグノア国王とその相棒にして伴侶の元海賊王の物語は、吟遊詩人に愛される物語となり、真実の鏡の愛の歌になったそうな。

おしまい