第1話 僕だって旅立つぞ! 作・彩川りんな
その、とある世界には、人間、竜族、精霊、魔族が住んでいる。
人間多い、草原と平地の多い国である、グラスネイドの片田舎、少年は母と二人、小さな村にて、行方不明の父親と、家計のために出稼ぎに出た姉の帰りを待つばかりの日々だった。
少年アルヴィード=ローレック。まだ十二歳の幼き子供であった。
アルヴィード、アルヴィと呼ばれているが、彼は勇者や英雄の物語、冒険物語が大好きだ、特に本好きでもなければ、勉学に励むのも不得手な普通の少年だ。
かつて、戦火があった、父であるアルバトールは戦地に赴き、行方が知れず。
母と姉と子供のアルヴィは、英雄という存在・・・
グラスネイドの勇者、英雄グラニードに、窮地を救われた事があった。
その時に英雄に貰った蒼きバンダナは、アルヴィの負った怪我を応急処置してくれたものだが、アルヴィの宝物である。
そんな事もあってか、アルヴィは冒険物語や英雄、勇者の物語に憧れていた。
いつか、僕だって、そんな感じの、勇者になるんだ!・・・なんて。
父であるアルバトールは、勇敢な戦士と聞いている、だが幼かったアルヴィは、父の顔をあまり覚えていない。
母、エルネアに女手で育てられた。姉のアシュリーは、女だてらに剣を取り、家計の助けのためにも出稼ぎに出たまま帰らず、たまに仕送りと手紙が来る。
あ~あ、僕だって、役に立ちたいし、強い男になって、母さんを助けたり、姉ちゃんが出稼ぎしなくてもいいように、僕が出来ればいいのになぁ。
まだ、しっかり振るえない、剣を眺めながら、アルヴィはちょっと情けなく感じていた。
ボーッとしていたアルヴィの耳に、荒い音が入ってくる、それは、炎の燃えるような。
あれ?何かザワザワしてる、と。アルヴィは眺めていた剣を手に、部屋を飛び出す。
「母さん!?」
母エルネアは、炎の魔法で、湧いて出たらしい魔物と応戦していたのだ。
「アルヴィ!隠れてなさい!危ないから」
「僕も戦うよ!剣くらい使えるよ!」
「あんたじゃ、怪我するのがオチじゃないのかい」
「もー、ひどいよ母さん、僕だって戦える!」
「じゃあ、そこのうにょうにょしてるのを、やってみな!」
ようし、スライムくらい、僕だって倒せるぞ!
そう、それはアルヴィードの、初陣だった。かも知れない。
エルネアは、余念なくアルヴィを守りつつ、魔法で魔物を倒していた。
かつて、夫アルバトールと、旅をしていたらしい。
たまに村に出る魔物を、エルネアは魔法で倒している。
村の男達も、斧やら、農作業の鎌やら、棒なんかを持って戦うが、エルネアの魔法が一番強かった。
アルヴィは剣を振る、守られながらの意識など、無かった、母さんを守るのは、村を守るのは僕だ!
そう奮い立て、素振りしかしていなかった剣を振る。
「てぇーい!やああああッ」
アルヴィ、スライムの妙な動きから寸で避け、跳び上がって剣を振り下ろした。
初めての必殺、初めての一撃。
食らわせた一撃は、スライムを消し去った。
「やったあ!」
僕だって出来るじゃん!と喜ぶのも束の間
後ろから、ネズミの大きいの、みたいなのが襲いかかる。
「わああっコイツ!」
またもギリギリで避けるアルヴィ、剣を向ける前に、母の雷撃が大ネズミを倒してくれた。
「もういないようだね、全く油断ならないね、魔物ってのは。」
「母さん!大丈夫?」
心配そうに駆け寄る息子の頭を、エルネアはぽんと軽く。
母さんは負けやしないよ、と。
その夜、アルヴィは考えていた、寝付けなかった。
僕だって勇者に、なりたいのに、これじゃあ全然ダメだなあ。
母さん姉ちゃんの方が、男の僕より強いよ、なんかなっさけなーい!
前から、思ってた、旅に出てみたいと。
帰って来ない父さんも、探したいし、世界って、このちっちゃな村よりずっと広くて、何か想像しただけでワクワクする!
あの時、英雄グラニード様が助けてくれなかったら、僕はこうしていないかも知れない。
まだ、母さんも村も守れないけど、強くなりたい!
グラニード様に言えなかったお礼も言いに、またグラニード様にお会いしてみたい!
姉ちゃんが戦わなくてもいいように、僕が稼げたらいい、父さんがいない今は、家の男は僕だけだぞ。
守られてるみたいで、情けないよね、子供だけど、僕だって男だし!
よし、決めた。
アルヴィード=ローレック十二歳、心に、決めた事、旅に出よう。
母さんは反対するかも知れない、でも僕、決めたんだ、と。
明日、母に言うのは、軽くない、少年の決意だ。
アルヴィは、母エルネアに、その旨を願い出た、心に決めたら、その後は実によく寝た。
アルヴィは、まず、反対を覚悟していたのだが、意外にもエルネアは、そうかい、と笑ったのだ。
「あんたなら、いつかそういう日が来ると思ってたよ。父さんの子だね、アルヴィも。」
アルヴィはきょとん、と。
なんて、通そうかと思っていたのに、母はあっさりとそう言うのだから。
「あんたも、字と数は覚えたし、剣もなんとかなってきたようだし、昨日の一撃はなかなかだった。」
「母さん、僕、絶対強くなるから!約束するよ!父さんも姉ちゃんも帰って、母さんも、みんな楽させてあげるよ!僕だって勇者になる!強くなるための一歩だよ、ありがとう母さん!」
「勇者、ねぇ・・・。まあ、あんたなりに頑張ってみなさい、あと、ひとつ」
母は、ひとつ、約束事を出してきた。
父が、アルバトール=ローレックという事は人には言わないようにと。
探すのはいいが、名は出さないように、と。
なんで?
アルヴィは不思議そうに、母の顔を見た、エルネアは、アルヴィの知らなかった事を語った。
父さん、アルバトールは、昔、それこそ、勇者みたいな存在だったのさ、と。
その仲間だったから、母さんは魔法が使える、父さんは強かった、あんたもその血を引く男だよと。
「あんたはまだ、世の中を知らない、父さんの名前を出したら、悪い大人があんたを騙すかも知れない、いいかい、わかってもわからなくても、これは約束だよ」
「よくわかんないけど、わかった、父さんの事も、母さんの事も秘密にしておくよ。約束。」
アルヴィは、僅かな荷物を鞄に詰めて、少しの路銀を貰い、剣片手に旅立つ事になった。
額に、かつて英雄グラニードから貰って、返せないままの蒼いバンダナをしめて。
少年の心はワクワクでいっぱいだ、一人で出るが、怖くはなかった、ただ、ワクワクと、既にぼろぼろ気味の地図を持って、心に世界を、空いっぱいに夢と希望を、抱いて。
地図に、自分の名前を書いた、ちょっと字を間違えて直した。
「いいのかい、エルネアさん。アルヴィまで行ってしまって、寂しいねえ。」
村の住人には、言われるが。
あの子が、旅立つと言い出す時を、私は待っていたのかも知れない、と。
アルバトールの子だ、何より私の子だ、黙ってるわけ、ないから。
エルネアは、息子の背中が見えなくなるまで、見送ると、嬉しそうに背を向け家に戻った。
アルヴィは、意気揚々と、村から町の方への道を歩いていた。
やったー!これは勇者の物語の第一ページだからね!
スライムにも大ネズミにも負けるもんか!
僕だって勇者になるんだからね!
街道を進むアルヴィ、地図はちゃんと読めてるはず、この道を進めば、町が見える。
でもお腹空いたな、パン食べよう、アルヴィは呑気に昼ごはんを決め込んだ。
母さんが、パンにお肉を挟んでくれた、今日はこれ食べられるけど、今日町に着かないと、後々のごはんが買えないから、頑張って歩こうとか、呑気にしていた。
肉の匂いは、魔物にもいい匂い。
大ネズミと、見たことがない獣の魔物、二匹がアルヴィと肉の匂いに誘われ、襲ってきた。
「まっ、負けないぞ!来るなら来いっ!」
剣を構えたが、アルヴィは正直、レベルは1である。
空振り、ミス、当たったけど少しのダメージ。
避けるのも限度があった、獣の魔物の攻撃を食らってしまう。
「わーわーわー!やっ薬草どこだっけ?!」
薬草の入った鞄は、座っていた切り株に置き去りに、アルヴィは戦ううちに少し離れてしまっていた。
まずい、薬草の入った鞄まで、戻れるか、戦えば戦うほど、少しずつ離れてしまう。
劣勢、二匹の魔物はアルヴィの若干の攻撃に怒り、襲いかかるのをやめそうにない。
「ふぁいあ〜」
ふと、飛んできたのは火の玉で。
これは、炎の魔法だ!
でも、母エルネアのものに比べると、随分へろへろで弱い火の玉。
不意打ちの火の玉に驚き、魔物たちは怯む、その隙にアルヴィは、獣の魔物にいい一撃を食らわせることに成功した。
獣の魔物は倒れ、大ネズミは飛んできた火の玉によって倒された。
「へぇ、弱いと思ったのにやるじゃん」
火の玉の主が言う。
振り向くと、そこに居たのは、肩くらいの金髪に、ピンクの服、薄いひらりとしたマントをなびかせた、
・・・女の子に、見えた。
「助かったよ、今の君の魔法?」
「そうに決まってるじゃん、へっぴり腰。助けてやったんだから、そのパンちょうだい」
「な、なんなのこの子・・・これあげちゃうと、僕の夕食がなくなっちゃうんで」
「じゃあ、仕方ないからお菓子で許してあげるけど」
妙に横暴な、ピンクのひらひらなその子は、見た目は可愛いように見えるが、口は悪いようだった。
アルヴィも、お菓子など持ってない、そう告げれば、その子はため息をつくと、背を向けて去ろうとする。
「ああ!ちょっと待ってよ、ってか君も女の子一人で歩いてたら、危ないよ?」
アルヴィがそう声を掛ければ
「じょにーは男の子だぞ!ばーか!じゃあな!」
そう言ったと思うと走り去ろうとした。
・・・が。
転んだ。
ぐー、きゅるる
腹の虫が鳴る。
「あー、大丈夫かい、ってか男だったのかっていうか、もしかして、お腹減ってる?」
「わかってんなら、なんかちょうだい、なんかお食事が尽きてから何日なんだろ・・・むー」
何か、助けられたと思ったのに、変なのに出会った気がしたアルヴィだった。
仕方ないと、昼のぶんの肉のパンを半分に割り、欲しがる割に渋々受け取った、その火の玉ピンク。
無言で頬張る。
「あのさ、僕はまっすぐ町に向かうんだけど、よかったら一緒に行く?その様子だとお金とかなさそうだし、戦うなら二人いたら心強いしさ」
「なにそれ、ナンパにしては下手くそだなぁ」
「ナンパしてねーよ!っていうか君は男なんだろ!」
「男の子だよ、知らない人について行ったらダメだって言われてたけど、おまえ悪くなさそうだし、弱いから、じょにーがちょっとだけ、助けてあげよう」
ガタッと、コケそうになるアルヴィ。ツッコミようもない気分だ。
「ジョニーって、いうのか?僕はアルヴィ、まあ、町までは一緒ってことでいいかな?」
「あるびー?変な名前〜まあ、ついでに美味しいレストハウスにでも連れてってよ、じょにーお腹すきすき過ぎてダイエットし過ぎになりそうだからさー」
レストハウスは無理だけど、ちょっとくらいはまあ、とアルヴィ。
なんだか、放っておくのも、こんな子を飢えさせるのも忍びないと思った。
どう見ても、ピンクひらひらの、美少女かと思う少年魔道士ジョニー、妙な道連れが、出来てしまったアルヴィであった。
続く。
2025/12/4アップ
