銀ちゃん誕生日お祝い話。あまいはなし。

そのとき銀時はひとりソファでジャンプをぺらぺらとめくっていた。
新八は今日は親衛隊長だし、神楽は定春を連れて散歩に出ている。
ひとり静かに、暇そうに。たまにはアンケートハガキとか書いて出したらなんか当たるかなー
でも年齢記入すんのイヤだからしないけどー・・・とか、つまらないことを考えていた。
そんな静かな万事屋のインターフォンが、1回、ぴんぽーん・・・と鳴った。
誰だ?家賃はこないだ払ってやったからババアじゃねーよな・・・と、依頼来たかなーと、
はぁーいとだるそうな声で玄関に向かう。いつもなら映る影でわかるが、今は日差しの関係で
わからない。
がらっと開けた戸の向こうに、自分より少しだけ低い位置に、伏し目がちな黒い瞳が・・・
一見わからないが嬉しそうな黒い瞳が見えた。
ヅラかよ。
ガラガラガラ。
無言で無視して閉める銀時。
何が嬉しいのか知らないが、面倒なことを言われるのは本当に面倒なので、いきなり無視。
が、背を向ける瞬間、ガララッ・・・と戸は開いた。

「こら銀時、どういう態度だそれは!そういうことすると折角買ってきてやったのにやらんぞ!」

そう言われて改めて見ると、桂は四角い包みを持っていた。
どう見てもケーキ屋のホールサイズなのだが、古めかしいことにビニールの風呂敷包みだ。
それが桂には妙に似合っていて、なんだかおかしい。老舗の和菓子屋のケーキ、みたいである。
「何、やけに豪華な差し入れだなオイ。」
何でまたケーキをホールで買ってきたのか、銀時は失念していた。
「イヤだから・・・貴様今日はその・・・誕生日だろう。」
桂は微妙に照れている。
「あ?・・・あーあーあー、そういやそうだったっけ。
よく覚えてんなそんなこと。そのためにわざわざ買ってきたワケ。」
こっちもこっちで照れ隠しである。
「何だその態度は本当に・・・。」
ちょっと怒っている。まあ無理もない。
「・・・まあ、そういうことなら追い返すわけにもいかねーわな。」
なんというか、くすぐったいものがあるが、ツンデレの本心としては、
二人きりで甘いケーキとは実に美味しい、である。
「まったく・・・ひとりで全部食うなよ、リーダーと新八君の分も残せ。」
そう言う桂は、珍しくあからさまに笑顔であった。
・・・銀時はこれに弱い。
たまにしか見せない分、威力がある。
「はいはい、あとお前の分な。」
何この甘ったるい空気。そう思いながら。
いつもキィキィと吠え合うのが嘘のような、むずがゆいことこの上ない空気が漂っている。
大体、男友達がバースディケーキをわざわざ買ってくる、なんていうのが
あんまり聞かないシチュエーションだ。
ケーキのふたを開けながら、
このまんまケーキより美味しくて甘いものも食えないかなーとか
友達相手には考えないことを思ってみる。
この空気に乗じて、口説き落としてみるかなーとか、考えてみたその時、
ガラガラ。
「ただいまー。あ、ヅラ来てたアルか。わ!でっかいケーキアル!
今日のおやつは豪華アルなー!」
わぁいと、神楽の声が響く。
「あれ、桂さんこんにちは。」
新八も親衛隊長ではない姿で帰ってきた。

・・・まあ、そんなもんだよな。
行動に出る前に帰ってきて良かったよマッタク。
俺が甘かったです、まさに甘かったです。
どうだ美味いか、という問いに、「甘い」と返して、
それは美味いということか、と返され。
「甘すぎて美味しいことになり損ねたんですけど。」
・・・と、自分にしかわからない言葉を発して、贅沢言うなと機嫌を損ねそうになる。
「何言ってるんですか、買ってきて貰って。」「むしろ甘さ控えめヨ。」
と、言われる始末。
イヤ、まあ、幸せな空気だねえと、言葉には出さず、ふたつめのケーキの苺を口に含んだ。

おしまい。

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まあ、甘ったるい話をひとつ。
何かほのぼのーとしてて、自分でも何かおかしいや。
しあわせなひとこま、でいいか・・・いいのか?!

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