ショートストーリー・微笑みの中へ・・・
「Your Smile Your Tears・・・」

石造りの城の一室、少女はひとり。
窓の外の空を眺めて、その下の緑を眺めて。
ただ、毎日絵筆を取った。
ある日少女エルリアは、妖精の絵を描いた。
自分の姿を映した、金の髪の妖精の少女を。
自分の名から取って、エティ・エレスタと名付けた。

あなたは自由に飛び回って。歩くことの叶わない私のかわりに、何処へだってその羽で・・・。


「エティ?こーら、そんなとこで寝てんなよ。シシェリーが掃除しろってうるさいんだよ。
悪いけど、起きてくんない?」
薔薇色の髪をした少女が、ハタキを片手に、テーブルの上で眠っている妖精の少女に声をかける。
「・・・・・ん。あ、ティルル。ごめん、あたしつい寝ちゃって。
お日様の差し込んでくるのが、あんまり気持ちよくって。」
「ははは、いいけどさ。・・・なに、泣いてたのか?」
エティは、そう言われて自分の目の下の涙を指でさわってみる。
「あ・・・、ほんとだ。・・・・・うん、ちょっと夢を見て。」
「・・・昔の夢でも見てたのか。」
「うん。よくわかったね。」
「エルリアさんか・・・。昔のここの城の城主の娘か・・・。」
ティルルは石造りのその部屋をふと見回しながら言う。
昔、この城に住んでいた、足の不自由な娘。
ずうっと、ずうっと昔の、その思い出を、エティは夢に見ていたのかな・・・。
そんなことを思いながら、見回してみる。
エルリア。不自由な身体で、いつも部屋にひとり、好きな絵を描いていたというひと。
ずうっと時が経って、ティルルの友達の女優シシェリーがこの城を格安で購入した。
それまでこの城は無人の古城であった。
家出娘のティルルが、シシェリーとともにここへ住みだして、
あるとき見つけた一枚の絵。
金の髪の可憐な妖精が、楽しそうに飛び回る、その絵。
不思議なことがおきた。
ティルルが眺めていたら、妖精は絵の中から飛び出した。
明るい、いつも笑顔のその妖精の少女は、その日から友達になった。
「夢でエルリアさんと会ったの?」
「うん。あたしを描いてた。」
「はは、自分が生まれるときを見てたわけだ。」
「そうね、ふふっ。」
ふたりはそう、笑う。
「エルリアは、絵を描いてるときはいつも、楽しそうなのよ。きれいな笑顔のひとだったわ。」
「エティに似てるんだろ?」
「そうね、エルリアのほうが綺麗よ。」
ふふっと笑いながらエティは言う。
「・・・エティはいつもそうやって、きらきら笑ってろよ。」
「あら、毎日楽しくて、笑うなって言われたほうが困るわ。」
エティがそう言うと、またふたりは笑い出した。
「ほーら、なにやってるのよ。お掃除してくれなきゃ、お茶にできないでしょ。」
シシェリーが、長いグリーンの髪を指でくりくりと軽く遊ばせながら、しゃなりと歩いてくる。
「わーってるよ、うっさいな女王様。今テーブル拭くから。
たまには自分でお茶の用意しろってんだ。」
ティルルは文句を言いつつ、テーブルを拭く。
「エティ、今日のお菓子何にしようかしら。」
シシェリーが台所へ歩きながら言う。
「昨日カイリが持ってきてくれたマフィンがまだあるわ。乾いちゃうから食べちゃおうよ。」
エティが言う。
「そうね。ティルルー?お茶の箱はどこにあるのよ。」
「へー、ほんとにシシェリーが入れてくれるんだ?
右の棚の真ん中の段の、左の方。」
「は?ワンスモア・プリーズ。」
「だーから右の棚の・・・・・」
そんなやりとりを見て、エティは輝くように笑っていた。

・・・ねえエルリア、あたし楽しいよ。あたしは元気よ。
みんな素敵なお友達。みんな大好き。
このお城が、こんなに笑顔でいっぱいになってよかった。
あなたもここにいたらよかったのに。
ただ、あなたの心からの笑顔が、あたしは見たかった。
ティルルがね、言ってくれるわ。
あなたのぶんまで、あたしがいっぱい笑っていろって・・・。
あたしはもう、なんにも寂しくなんてないから・・・・・。
あなたは、天で笑っていてくれているかしら。
ねえ、エルリア・・・?








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サイトの看板娘エティのお話です。
切ないのはあまり書かないですが、たまにはいいなとか思いながら書いていた記憶があります。
サイト開設当時のものなんですよ。
看板娘のお話が切ないってのもなんだか・・・。
でも当時は結構好評でした。


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