膝枕

木漏れ日が、さらさらと風に揺れて、二人を優しく照らしたり、陰を作ったり。
カミュの頭は、イレブンの膝の上にある。最初はなんとなく二人、木陰に腰掛けていただけだった、けれどカミュは突然、イレブンの膝に頭をストンと落としてきたのだ。
それは、どう見たって膝枕というやつであって。
「か、カミュ?」
下から覗きこむように顔を眺められて、突然の膝枕状態にイレブンは頬を赤らめている。
「サイコーだな、一回やってみたくてよ、こういうの。」
そう言いながらカミュの指は、イレブンのさらりとしたその、指ざわりも良い髪を撫で始める。
イレブンの方は、突然の相棒の行動に驚いていたが、髪を撫でられているうちに、自分も心地よくなってくる。
周りは、誰も居なくて、せいぜい蝶や小鳥が舞うくらいの。
もともと二人は、キャンプに必要な薪になる木片などを取りに来ていたのだったが、命の大樹のような壮大なものではなくても、いい大木がそびえ立っているのを見つけて、休んでいたところだった。

二人だけの、膝枕、カミュはそんなこと、したかったの?僕の膝で・・・?
恥ずかしさもあるが、嬉しい。カミュの手は、気付けばいつもの革手袋を脱いで、素手のまま、イレブンの染まったままの頬を撫で始める。
「誰も見てねぇし、いいだろ、たまにはさ。」
いつもは澄ましているカミュが、なんだか素直に嬉しそうで、それがまたイレブンにも嬉しくて。

イレブンの手も、カミュの青い髪をふわ、と撫でる。
気付いたら見つめ合っていて、お互い顔は緩んでて、幸せな木漏れ日とそよ風。
見上げたイレブンの微笑んだその整った優しい顔立ちが、いつもよりもずっと優しくて、きりりと上げ気味だった眉も緩やかになっていて。
そうだ、それが見たかった。最近はまた、邪神だのなんだの、イレブンの背に負い被さる荷物が、勇者としての使命というやつが、休みなく、町の外の魔物の忙しない様の如く襲っているから、カミュとしては心配ではあり、休ませてやりたかった。
見た感じ、カミュが休んでるふうの膝枕だが。
久しぶりに見た、その、本来であろう優しい微笑み。

そうだ、こいつは心の底から優しいやつなんだ、本当は魔物を倒すのだってすら、嫌なくらいの。
その手には、本当は剣なんて握らせたくないのがカミュの本音であって。
オレの左手は、お前を守るためにある、今は、撫でるためにある。
お前の左手の印が、世界のためにあるんなら、オレの手は両手とも、お前の為に使ってやるさ。

「可愛い顔してるよな、イレブンは」
撫でながらカミュは、自分まで眉を下げ気味に、本当に幸せそうに、呟く。
「か・・・可愛いって、僕、これでも男なんだから」
「可愛いもんは仕方ねぇだろ、可愛いぜ、・・・オレのイレブン。」
そう言うと思うと、カミュはイレブンの頭をグッと自分に引き寄せる。
ちゅっ・・・と、いう甘い音が、周りが静かなぶん、よく聞こえた。
突然のキスに、イレブンは?だけでなく全身真っ赤、という感じ。

ふと、静かな甘い場面に邪魔もの、大したやつではなくても、魔物が潜んで一匹。
女神像の加護も届いていない場所だから、今まで邪魔がなかったのが、本来不思議なことだった。
イレブンの顔つきが変わった、置いていた勇者の剣に手をかける。
が、カミュの手の方が早かった。
短剣が素早く、ヒュッと飛んで、臆病なやつだったのか、魔物は怯んで逃げた。
「邪魔すんな、逃げるくらいなら出て来るんじゃねーよ」


折角の膝枕だったのに、と本当に残念そうな顔のカミュ。
「カミュって、その、膝枕好きなの?」
なんだかいつもの顔に戻ってしまったイレブンだが、膝枕を思い出してまた赤面している。
「そうだな、まあ、お前にして貰うのが好きだな。」
さっきまでの優しい笑顔が、一番好きなのだが、邪魔のせいで戻ってしまっている、赤面くらいは毎日見られる間柄だが、あの本来の優しい笑顔が、なかなか見られない。
「あの、ね、僕の膝でいいなら、いつでもどうぞ。」
「そうか?そりゃ嬉しいな、じゃ、そろそろ戻るか」
「うん、みんなが待ってるんだった!」

「あとで・・・テントで見せてくれよな、お前の本来の姿をさ。」

「本来の、姿?!・・・って、どういう意味!?」

さっきみたいな、優しい顔で、ついでに可愛いところも見せてくれれば、最高だな、
それが見られるまで、いや、毎日見られる日が来ても、
・・・オレはお前から、離れる気はねーからな。

というのは、カミュの心の中の台詞で、口では「行くぞ」とだけ。
手袋を外したままのカミュの手は、イレブンの手を妙に優しく、大切そうに握って。

キャンプに帰った二人を待っていたのは、これも幸せな、仲間のひやかしとか呆れとか。
明日もまた、イレブンとカミュは、背中合わせの戦いを続けるけれど、
カミュの心の中の守りたい誓いは、こっそり膝枕をしてもらうたびに、強くなった。
イレブンの心は、膝枕をするたびに、柔らかくなっていく心地がした。
膝枕以上のこともしている、関係だけれど、なんだかその時間は、優しくてお互いに柔らかかった。


「ねえ、最初に膝枕したとき、結構大きな樹の下だったよね。」

「ああ、まあ、そうだな。」

「今度、命の大樹の側で膝枕とか、どう?」

「なんでまた。オレはどこでもいいけどな。」

「認めて、欲しくて。カミュと、僕のこと。」

「大樹に断り入れないと、膝枕もできねーのかよ、誰が何言っても、オレはお前と一緒にいるつもりだぜ。」

「えへへ、そうだね、大樹みたいな樹の下だったなあって思って。」


最初はそんなこと、言ってくれなかったのにね、と、屈託ない本来の笑顔でイレブンは幸せそうに青髪を撫でる。
なんとなく照れくさくなって、カミュはごまかしも含めて、イレブンの顔をグッと近付けてキスをした。
その日も、場所は違ってイシの村だが、そよ風の祝福は優しく吹いていた。











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