お前が世界一最高のお宝なんだぜ



勇者イレブン一行は、その日も魔物との戦いに明け暮れて、仲間達のMPが尽きかけたので、
キャンプで朝まで休むことにした。
旅立った最初の頃のイレブンはなんだか慣れない手つきで、カミュに色々と野営の極意を教わったりしていたものだったが、今はすっかり手慣れて、キャンプでもリーダーと言うか中心になっている。
カミュは、愛用の短剣を手入れしながら、そんなイレブンを目や気配で感じて、成長した相棒を、愛おしくも頼もしくも思う。
・・・可愛いところがあるのは、変わってねぇけどな、なんて思いつつも。

二人は、相棒と呼び合いながら、それをも超えた仲である。
ある意味それも、相棒と呼べるか、恋人同士。別に二人共、男が好きなわけではないが、運命か天命か、まあなんと呼ぼうが、お互い無二の、何もかもとっ超えた絆と愛で結ばれている。
イレブンは元々鈍いところもあり、進んでぱふぱふ娘にも話しかけては、はいと答えるが、全く意味がわかっていない。
結局ぱふぱふってなんなの?と、首を傾げる。
のんびりしたイシの村で育ったユグノアの王子様、天然なのか、けがれなき澄んだ瞳はカミュを映した時に一番嬉しそうに輝く。
少し長めのサラサラの髪と、中性的にも見える綺麗な顔立ちは、それはモテないわけはないが、ご本人様の心には、既に、相棒と呼んでくれるカミュのことだけが特別で、鈍いだけに初恋かもしれなかった。
カミュの方といえば、彼はイレブン以上に女にモテるが、本人は19歳という年齢ならそろそろ考えても良さそうな結婚や恋愛沙汰を考えていなかった。
好みのタイプも得にない。相棒イレブンと旅をするのが、今の彼の一番楽しいことである。
叶うなら、この戦いが終わって平和が訪れたなら、愛しいイレブンをかっさらってでも、ふたり旅をしたいと思う程。
イレブンは、カミュだから好きなんだよと言い、カミュもまた、イレブン以外を抱きたいとは思わない。
そう・・・そこまで行っちゃってる仲である。
イレブン曰く、カミュと来たら淡白な男なのかと思いきやとんでもなく、狼のようでビーストモードの会心必中で実に器用らしい。
ことの最中に戦闘スキルを繰り出しているわけではない、イレブン曰くそういう激しさがあるらしい。

カミュとしては、キャンプは好きなのだが、ひとつだけ不満がある。
ふたりきりになることが、宿と違って叶わないため、イレブンを抱くことが出来ないことである。
すっかりパーティのリーダーとして、しっかり立つ勇者イレブンの、隠れた可愛い素顔がなかなか見られないことだけ、不満。欲求不満になる。
そう、今日も、キャンプ。

「イレブンちゃん、今日も美味しそうな煮込みシチューねぇ~!すっかり得意料理ね!」
そう言いながら、シルビアは鍋をかき混ぜるイレブンに声をかける。
「うん、カミュ直伝だからね、ぼくもこれが好きだから。」
イレブンはそう答える。
最初、イレブンとカミュは、お互いがいい関係になっていることを隠していたが、シルビアにはいち早く見抜かれた。
秘密にしてと頼んだが、他の仲間も感じ取っていたようで、けしてシルビアは話していないのにもかかわらず、あるときベロニカにまで、
「今更何言ってるのよ、バレバレなのよ」
と言われ、セーニャにはお幸せにと言われてしまった。
その時のカミュの反応と言ったらなかった、更にからかわれる始末で、それからは隠す必要はなくなったのだが。
マルティナは何故か、イレブンの恋の後押しのような立ち回りで、弟なのか妹なのかわからなくなってはいまいかというくらい応援してくれる。
逆に一番気付かなかったのがグレイグとロウである。
まさかそんな関係にまで至っているとは思わず、いや、男だろう!という反応。
むっつりなグレイグとムフフな本を好む爺さまには、少々理解に苦しむところか、
イレブン曰く、愛って、精神の方。魂でつながるの。カラダの方は、それを感じるための方法だよ、と。
「勇者さまは言うことが違うぜ、高尚だな。オレは、お前が可愛いからやってんだけどなァ。」
横でカミュは、そう言っていたが。
「それでいいよ、ぼくが奥手だから、そう思うだけかも?カミュに可愛いって言われるのは嬉しいよ。」
余談、他の男に可愛いと言われたら、嫌らしい。

シチューに話を戻すと、イレブンはカミュに味見を求める。
「うまい。オレが作るよりよっぽどうまいぜ。」
「本当?やった、師匠を超えた!」
鍛冶に大成功したときの如く、喜ぶイレブン。
「いつからオレはお前の師匠になったんだよ?」
笑いながら、カミュ。
「カミュがいたから、今のぼくがあるんだよ。」
イレブンは、滅多に見せないくらい、満面の笑顔でそう返した。

そして、幾日か。
その日の宿は、ホムラ。
たまには温泉蒸し風呂で、リラックスしようという話になり、ルーラで飛んだ。
それまで、ひたすら、お休みは、キャンプだった。
仲間達は、久しぶりに休養するかのように、それぞれがそれぞれの趣向で、楽しむ。
「カミュ、蒸し風呂行こうよ」
「イレブン、それ、まるで誘ってるみてーだな?」
「そっ、そういう意味じゃないよ、蒸し風呂誘ってるだけだってば。」
そんな会話をする、若き恋人達。
入浴前から、真っ赤になって、火照っているかのような、何かが燃えるようなものを感じる。


これは、確実に、押し倒されるなあ・・・
カミュの目が、なんだか攻めて来るし、狼さんみたい。
ぼくもなんだか熱いし、そ、それはもう・・・
覚悟しなきゃ、ダメかな?
そういえば、ここのところはキャンプ続きで、ふたりきりってなかったし、そういうことか。

イレブンが、カミュの抑える心情と熱い何かを、図り知ったとき、もう遅かったようだ。
「風呂、後な。」
「う、うん?」
「その顔はわかってる顔だろ?」
「うん、・・・いいよ、カミュ、来て。」

その夜、蒸し風呂よりも、余程熱い、久しぶりに愛を確かめ合うふたりきりの夜。
「オレはな、こうしてると、世界一の最高のお宝を手にできるんだぜ、イレブン。」
「それって、ぼくのことって、自惚れてもいいこと?カミュ。」
「自惚れじゃねーよ、本当さ。」
「それは、嬉しいな、えへへ・・・」
カミュの手は、イレブンのサラサラの髪を撫でながら。そんな秘め事の会話を、交わした。

ある時、カミュは、半分になっている硬貨を眺めていた。
ユグノアの、硬貨だったものだが、割れていては売る事も出来ないが、カミュはしげしげと、見つめていた。
「半分になっちゃった硬貨?何か大切なの?」
と、不思議そうに覗きこむイレブン。
「イヤ、例えばな、コレと、コレ、こっちがオレで、こっちはオマエ。半分だけどな、くっつければ一個、ひとつだろ。」
そう言いながらカミュは、割れた硬貨を半分ずつ、離したりくっつけたりしてみせた。
「え、うん?こっちはぼくで、こっちはカミュなの?」
「わかんねーか?ふたりでひとつだろ、オレ達はさ!」
「あ・・・!」
「な?」
「うん!嬉しいな、その喩え。」
オレは勇者じゃねーが、お前の半身みたいなもんだと、お前もオレの半分みたいなもんだと、オレは思ってんだ、だろ、相棒。
そう言うカミュに、イレブンはなんだか敵わないなあと零したあと、半分ないと寂しいもんね、と付け加える。
「ヘヘッ、オレがいないと、寂しいか。」
妙に得意げに、イレブンの顔を覗きこむカミュ。
「当たり前でしょ、・・・ずっと、一緒だよ。・・・大好きだからね、カミュ。」
イレブンは、過去にあった色々をふと思い出しつつ、隣にカミュがいることを確かめるように、肩にもたれかかる。
「おう、えーと、オレもだぜ」
妙に照れるカミュ。
ちゃんと言って、とイレブンはカミュの顔を覗きこむ。じーっと。
「ああ・・・参ったな、その、愛してるって!」
うん!と、カミュの最高の相棒は、そのまま目を閉じた。
積極的なのは珍しいなと、ちょっと驚いたカミュだったが、その意味を汲んで、いつもより優しく、くちづけた。









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