「再会」


主な登場人物

勇者リン 男
元気でやんちゃさもあるけれど、優しさも併せ持つ少年。
ティートが好きだが、なかなか思い切れないで進展していない。
ルリノとは良い友であり兄弟代わりみたいな部分も。

賢者ティート 女
クールでつかみ所のない、元僧侶の賢者。
なにか秘密はありそうだけど、話そうとはしなかったが。

賢者ルリノ 男
まだ幼さも残した、だが切れ者の少年賢者。元は遊び人だった過去を持つ。
美少年で、言葉は丁寧。

戦士アリナス 女
美少女な女戦士。相当に美人。でも強い。中身は案外普通の女の子。

魔法使いミレーヌ 女
キュートセクシーな魔法使いのお姉さん。きゃっきゃうふふとマイペース。
ルリノが美少年なので、可愛がっていたり、意外とティートともアリナスとも話は合う。

僧侶ティルナ 女
謎の少女。このお話の鍵の女の子。

盗賊リュート 男
謎の少女のお付きの護衛役。吟遊詩人と本人は言う。





勇者リンのパーティの面々は、今はリン、女賢者ティート、少年賢者ルリノ、
女戦士アリナスという人員で冒険を続けていた。
行ったことのある町になら、どこへでも飛んで行けるルーラの呪文で
リンの故郷アリアハンへと帰郷している日も最近多い。
その日も、アリアハンの町の、思い出深いルイーダの酒場にて
旅の話から残っている者達の話から・・・様々とりとめなく会話を交わしていた。
帰ってくると、ルリノがパーティに入ってから自主的に抜けていた魔法使いミレーヌが
アリアハンでの話を色々と聞かせてくれる。

「そうそう、すっごく可愛い女の子をこの間、道案内したのよ。綺麗な子なのよ~。
あ、ルリノも可愛いわよ、相変わらず美少年で嬉しいわ~。この、何て言うのかしら
凛々しさと可愛さが同居してて・・・リンはやんちゃすぎて惜しいところだけど~
ルリノちゃんはほんっと、可愛いんだからぁ~。うふふ~。」

ミレーヌのいつものノリである。ルリノの美少年ぶりを随分と気に入っている。
「ああ・・・ええと、ありがとうございます、ミレーヌさん・・・。」
ルリノは真面目に恐縮しているのか、困っているのか、目でリンに助けを求めている。

「あああ、わかったから、その可愛い女の子がどうしたんだよ、ミレーヌ?」
リンは助け船を出すというか、普通に聞きたい本題に戻す。
「そうそう。それね。その子、名前は聞き損なったけど・・・僧侶みたいだったわね。
あたしが村の方に出掛けていた時だったのだけど、アリアハンへの道はどちらですかって
言うから、お連れしましょうかと言ってみたんだけど。一緒に行く仲間を待っているから
道だけ聞きたいって。それで教えてあげたんだけど・・・何か来てないような気がするのよねえ・・・。大丈夫だったのかしらって。」

ミレーヌの話によると、僧侶らしき少女が、連れを伴ってアリアハンへ来る道を聞いたというのに、
ルイーダの酒場でも町の人に聞いてみても、そんな目立つ可愛い女の子は見ていないという。
「その子は・・・そんなに可愛い子だったのか。たとえば・・・風貌とか、どんな?」
ティートが、珍しく少し難しい面持ちをしてミレーヌに聞く。

その子の風貌は・・・僧侶らしき法衣、長い青い髪はストレート、瞳は紅、
まだ幼さを残しながらも、どこか落ち着いた、凛々しさを持っていたと。
そのまま話も聞かないので、たどり着けていないのかと心配しているという。

「そうかーそれはちょっと心配だなあ。女の子の僧侶ひとりじゃ・・・危ないしな。
連れの人がアリアハンじゃないどこかに行きたがったとか・・・違うか、違うよな。」
リンがひとりで納得している。ふと、ティートに視線を移すと、なにやらいつもと様子が違う。
「ティート?さっきからなんかおかしいぞ。どうしたんだ??」
「リン・・・いや、その子はどうしたのかなと思っていただけさ。」
ティートはそう言ったと思うと、酒場の出入り口へ何気なく視線をやった。

そこに入って来た、ちょうどやってきた二人連れが目に入る。疑う由もなく。
「あ!あの子よ~!!よかったたどり着いてくれたわぁ。」
ミレーヌが妙に抜けた声で喜ぶ。

少女はこちらに気付いた、と言うかわかっていたかの様に、ティートの側へ歩み寄る。
ティートは、立ち上がり、少女に一礼する。まるでお姫様に一礼するかの様に。
「お久しぶりです、我が君。」
そう言って。
リンは目が点になっていた、なんだこの不思議な図は。

「ティ・・・ティート、君の知り合い、だったのか?」
ティートはうやうやしく姫の手を取ったまま、リンには目を合わせぬまま。
「探しましたよ、紹介しては下さらないのですか?」
少女が、いいのですよと、ティートを促す。
「ああ・・・こうなっては仕方ないね。姫、こちらがバラモスを倒すべく立ち上がった勇者リンです。
そして・・・」

ティートは、仲間の面々を姫と呼ぶ少女に紹介した。
そして、改めて姫を皆に紹介する。

「こちらは、ティルナ・ルビア姫様と仰る、聖姫にして巫女姫であられる、我が主君です。」
少し頭を垂れて、紹介する。
「始めてお目にかかります、勇者様。わたくしは僧侶ティルナ・ルビアと申します。」
いつも少し頭が上がらない、あのティートが頭を垂れる様な姫君が、
自分にまた、うやうやしく一礼するその様を、リンは頭の中で整頓できていなかった。
なに、この状況。

ちょっと気まずそうに頭に手をやるティートが、ようやくリンに視線を向けると、
「うーん、まあ・・・いつも通りにしてくれていいから。」
と言う。
「これでどーやって、いつも通りにしろって言うんだよー。」
リン、完全に困惑している。
「ごめんごめん。姫、まずはお掛け下さい。それから、
影みたいになってなくていいから、こちらへ、リュート。」
リュート、と呼ばれた少年が、ようやく皆の前に姿を現す。

「ええ、俺はリュート・アメルスという流れ者の吟遊詩人兼盗賊でーす。」
意外とノリが軽い。
聞けば、ティルナのお付きの従者にして、護衛を務めているという。
美しいご婦人方に凛々しき同胞へ、ここに邂逅への感謝を・・・なんて流れる様に言い始める。
「数日前は、道をお教え下さりましてまことにありがとうございました。」
ティルナはミレーヌに向かってお礼を言う。
いいえいいえと大げさに身振りしつつ、ミレーヌは不思議だった、今までどこにいたのかということを聞いてみる。

「わたくしは、このリュート・アメルスと共に、ずっと・・・旅をしてきました。
少し、こちらへたどり着くのが遅くなったわけは、ここからも見えますあの塔へ行ってみたかったものですから、寄り道をしておりましたからです。ご心配をおかけしてしまいましたのなら、ごめんなさいませね。」
そう言うティルナ姫の言葉に、またいえいえと、きょとんとしながら返すミレーヌ。

「そして、わたくしは、嬉しく思います。約束を守り、あなたは賢者となって再会出来ましたね、ティート・サフィア。」
ティート・サフィア?
リンは、慣れ親しんだ名前のあとの、知らない名前に頭がまたクエスチョンマークだ。
「はい、ルビア様。ひとつ、叶いませなんだお約束がありましたが・・・賢者となる約束はお果たし致しましたよ、でも、どうして、ダーマでお待ち頂けなかったのですか。ダーマにて再会するお約束だったはずですよ。」
ティートは、そう言う。なんだかいつものティートとは、違う気がする、自分が知らない時間の、ティートがそこにいる。リンは不思議な心境で、二人のやりとりを黙ってみている。
不思議な気持ちなのはルリノも、アリナスもミレーヌも、同じだ。

リュートが話に割って入った。
「まあそう、シリアスになりなさんな、俺もこの方の意外な跳ねっ返りぶりに手を焼いているんだ、ダーマに向かってたんだけどね、姫は外の世界に出たら、すっかり楽しくなってしまっているんだ、ティートが賢者になるのなら、自分も負けてはいられない、それ相応以上に頑張らなきゃってな、張り切っちゃって大変さ。
だから、ダーマにはまだ向かえないと、自分にはまだ、ティートの半分の事も出来てやしないと、毎日姫も頑張ってるんだよ、ティート。」

そう言われて、ようやくティートは、空いている椅子に掛け直した。
「はあ・・・まったく姫様は・・・。」
いつもの、ティートだった。
ふと、ティルナが言い出す。勇者様とお話がしとう存じます、と。
「俺と・・・ですか、お姫様・・・?」
「はい、リン様。わたくしはあなたさまにお会いすることもまた、旅の目的でありました。
勇者様、わたくしは精霊ルビス様にお仕えしております。この身この心、伝説を守り伝える一族の末裔として、勇者として現れる方の旅の行き先、その力にならんと、このティート・サフィアと共に生まれた者にございます。
ですがわたくしには、戦う力はとぼしく、戦いは辛いばかりの弱き小娘でしかありません。
でも、ティート・サフィアは違います。同じ僧侶として生まれ育ちながら、戦う強さを持ち得ておりました。
ですから、夢見のルビス様がいつかわたくしに仰いました、ティートは賢者への道のりを進みなさいと、わたくしはそれを守り癒しなさいと。
このティートは、我が姉とも思う大切な心のかたわれなのです。どうか、勇者様、頼りにして下さい、そして・・・お守り下さい、ティートは、わたくしのいちばん大切な家族に等しい人なのです。」
いつの間にか、リンにいつもの、最近身についてきた勇者の凛々しい顔がよみがえる。
「わかりました、俺にはティートとティルナ姫さんのことはまだよくわかんないですけど、
それだけ大切にしているお姉さんみたいなティートを任せられたのも、俺の宿命みたいな・・・ものだと思っていいの、かなあ。」

ティルナは、うやうやしげに感謝する。
「あと、たぶん・・・戦うのは俺も怖いときはまだあります。無理しないでも、ティルナ姫さんの出来ること、得意な癒しで頑張ればいいんじゃないかな、ティートとティルナさんは、なんか違うから・・・その、優しい人は、優しいままでいいと思います。」
なんとなく感じ取ったものを、リンは言葉にしてみる。その言葉に嬉しそうにしたのは、ティートだった。

「流石リンだね。姫は優しすぎるから、戦いには向かないんだ。だからあれほどリュートには、姫に無茶をさせるなと言っていたのに、塔に遊びに行っちゃダメだろう。
あの塔だって、そんなに楽じゃないんだから、止めるのと守るのがリュートの役目だろう。
リン、ありがとう。戸惑わせてしまってすまなかったね。」
いつもの、ちょっとすましたティートだ。

「ティートとティルナ姫は、似てるけど血はつながってないのね、でもびっくりだわ。
まさかティートに、こんなお姫様みたいな妹姫がいたなんて。本当にお姫様みたいだもんね。」
アリナスが、そう言いながらお茶をつぎ足す。

「わたくしの瞳が紅なのは、炎の光を宿すからだと、崇め立てられてきましたが・・・
みなさまや外の世界の人々は、わたくしをそういった目では見ずにいてくれるので、
大変心が軽やかです。そう、そして、わたくしとティートの髪が青くなびくのは、水のごとし流るるままに生きる・・・ティートの様にそう、わたくしもなりたかったのです。
今は、とても日々が楽しくあります。旅に出たのは、ティートの行く先を見守るためでしたが・・・
わたくし自身、とても楽しんでいるのです。」
ティルナは、楽しげに語る。アリナスに勧められたお茶を愉しみつつ。

そんな姫の姿を見て、他でもないティートが提案した。
「では、姫。こうしてはいかがです?我々はまた旅を続けますが・・・姫も、ご一緒してみますか?
リュートもいますし、ミレーヌ、君にも頼みたい。一緒に険しい道を歩かなくても、
リュートとミレーヌに力になって貰いつつ、いざとなったら私をベホマしに来て下さい。
我が君・・・神と、勇者の力を、いつまでも伝えなくてはいけませんから。
なんなら、もうひとりくらい、酒場から連れても・・・。」
飄々とした、ティートが笑顔でそこにいた。
「それはとても嬉しいお話です。それから・・・そうなれるのならば・・・
あなたにもお願いがあります。」
ティルナもまた、微笑んでいる。
「なんでしょう、私に出来ることなら。」
ティートが応える。

「ここでは、わたくしは自由なのですから、あなたもわたくしを姫扱いなさらないことですわ。
リン様達に接するようにして頂けたら、この上なく嬉しいのですけれど。敬語、無し。
・・・です。」
ティルナの、前々からの、願いだった。
姫として崇められる立場に立つ自分と、同じ生まれな筈なのに、頭を垂れる愛しい姉の様な人が・・・同じな筈なのに、どうしてなのかと。
立場はわかっていた。でも、そういう提案をしてくれるなら、それもまた、叶えられたらなにより、少女には嬉しいことだった。

「はー、そうきましたか。うーん、まあいいか。じゃ、見てないところだけね、姫・・・ではなくて、ティルナ。これでいいかい。」
困ったような顔をして、でも笑っていた。こそばゆい気分がするティートだ。
「ええ、ええ!では・・・私も頑張って、少しみなさんに近付きます。頑張るわ。」

リン達一行は、翌日、母の実家からまた旅立った。そして、その近く、少しつかず離れずの、補助パーティが出来上がった。一人足りないのはあとあと考えるとして。
「ホントに・・・あの子は昔から・・・好奇心は人一倍旺盛だったしなあ。」
ティートはいない間にぼやく。

「あはははは、いいじゃないか。ティートがひとりじゃなくて、よかったよ。
なんかティートって、いつもどっかひとりでさ。でも可愛い妹がいたんだな。
俺、びっくりしたけど、なんかホッとしたよ。」
リンは屈託のない笑顔だ。

「それはありがとう。正直、残して先に旅立って、ダーマで会えなかったときは心配だったんだよ。あの子の癒しの呪文は私よりずっとすごいから、みんな今度、味わってみてくれ。」
ティートの言葉。

「僕はやはり、ティートさんにはなにか、僕達にはわからないなにかを背負っていると感じていました。でも・・・リンさんの言うように、ひとりではないですよ。」
ルリノの言葉に、リンは、それから先は俺が、と顔に描いてあるように
「ひとりで戦うなよ、俺達は、仲間だからな!ティートもティルナさんもだ。」

「・・・ありがとう。やれやれ、これからはもっと頑張らないといけないかな。」
ティートは笑っていた。
「ひとりで頑張るなよ-。」
リンが言う。
「ひとりでなんて思っていないさ。ただ、面目は保たないとね。」
「なんだそれ?」
「まあ、いいから。そういえば、あの3人はなにをしてるんだろうね。」
「お土産屋さんに寄ると言っていましたよ。ティルナさんに負けられないです、僕も。
もっと頑張ります。さあ、リンさん地図を。」
「こらー、なにしてるのよ、置いていくわよ!」
リンも、ティートも、ルリノも、アリナスも。
勇者一行は今日も、晴れた空の下、進む。






後書き

なんだかどこがドラクエなんだかというオリジナル話になりましたが
ちらっとだけ出していた、ほとんど知られていないであろうティルナのことを書きたくて
あたためていたものを少し書き出してみました。
ティートとティルナは、絆で結ばれた聖姫ふたりですね。性格が違うし、立場も得意分野も少し違うけど
血こそつながりはないのですが、絆姉妹みたいな感じもあるかなと思います。
リンとしては面食らってましたが、柔軟に受け止めて、このふたりが笑っていられるようにと
またひとつ、目標を増やしたところでしょうか。
後衛の3人の中に次に入るのは、商人か武闘家か、さあどうでしょう。
ドラクエ3は4人限定なので、後衛とかなんか変ですが、全員ラスボスまで
連れて行ってあげたい気持ちがあります。
結構それぞれの思惑というか思いが絡まったり解けたり、忙しいリンパーティです。

ここまでお読み頂きありがとうございました!




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