勇者リンのパーティの、賢者ルリノ誕生秘話(?)です。





~奇跡の才能~



賢者という職につく者は、そうその世に何人も居るものではないという。
だが、勇者リンの仲間には、賢者に成り得た者が二人居る。
ひとりはティート・サフィアと名乗る、17歳・・・というのは本人の言うことであるが美しく凛々しい女性であり、もうひとりは、ルリノ、という名の14歳くらいの少年である。
成り得たのはティートが先であったが、ルリノもまた、その高き職を目指し・・・憧れていたひとりであった。
少年は身寄りは無く、厳しい「親方」に毎日こき使われ扱かれていた道化。
職はと言えば遊び人、本人は魔法使いか僧侶になりたかったらしいのだが、親方はそれを許さなかった。
それを救ったのが、そう、ルリノには光に、正に見えた・・・勇者リン達であった。


リンがアッサラームの夜に戸惑っていたところ、ふと目に入ったのが道化だった。
「あれ、遊び人みたいな・・・ピエロかな。初めて見るけど・・・。」
それを見て、ティートは目を少し、濁して言う。
「そうだね、あまり楽しくはなさそうな踊りだな・・・。」
「隣のバニーの女の子は大層楽しそうだけどね。ベリーダンスの子達とか。」
魔法使いのミレーヌはそう、何かをすくうような言い方で、ふふっと笑った。
「私はここの町は何だか苦手よ、夜は特に。」
戦士アリナスは、色目を投げかける男が多いことに気が滅入ってるようで。
「まあ、子供のいる所じゃないかもね、あたしたちも含めて?」
ミレーヌがそう言いながら宿に戻ろうかと手で仕草。
「うん・・・でも、なあ・・・。」
「どうしたリン、行くよ。」
ティートに肩を叩かれて、リンは仲間達のあとから宿に戻った。
・・・どうしても、気になった。
あのピエロは、遊び人は、ティートの言うように、楽しくなさそうで、悲しげに映った。
それに・・・どう見ても、子供だった。自分よりも幼げな。
気になるが、自分は先を急ぐ身、人のことではあるが・・・。
気になって仕方ない。
寝付くのが少し、遅くなるほど・・・。


「こらこら、リン君。何時だと思っているのかな?」
目を覚ますと、そこに映ったのはティートの凛とした笑顔。少しいたずらな。
「ひっひゃあ、ティートっ、何でいきなり起きたら君の顔が?俺夜に何かまちがった?」
寝惚けたせいもあって、おかしな台詞を放ち、口を自分の手でふさぐリン。
「あはははは、それはないよ。私は君を起こしに来ただけ、隣にいたわけじゃあ、ないさ。」
「ティート・・・変なこと言ってすまないが・・・乗ってくれなくていいよ・・・。」
リンの顔は赤かった。ティートは笑っていた。
それを眺めていた2人の仲間も、笑っていた、ミレーヌは声に出して、アリナスは苦笑。


全く、うちのお姉さんな仲間達は、俺のことをからかってくれてしゃくに障るよ。
少しまだ初心なところを持ったままの16歳の少年は、いずれも年上の女達ばかり選んだことに時々、間違えたかなと悩むのだが。
まあ、彼女らとの縁だからなあと、ティートがいないと思えばそれは嫌だ。
実っていないままの恋心も濁して、町を歩く、そこにまた、気になるものが視界に入って驚いた。
・・・昨日の道化・・・。
気がついたら声を掛けていた。何故か放っておけない、その存在に。
道化の遊び人は、壁に寄りかかってため息をついていた。
そこへ突然、少年の声が飛んできて、びくっと体を震わせた。
「あ、ごめん、驚かせたな。」
リンは近くに寄って、しゃがんだ。
「あ・・・いえ・・・あの、何か、ご用でしょうか・・・?ショーでしたら夜に・・・」
その声は、驚くほど澄んだ声、性別不詳な。子供か・・・?とリンは驚いた。
「ショーが見たいんじゃないんだ、君は、どうしてピエロなんてやっているんだろうと不思議でさ・・・。」
そう、何気なく本意を問うと、表情の不明な厚化粧が、少し怒っているように見えた。
「僕の・・・姿を、様をを笑いますか?これも生業というものです。」
驚くほどの、知的な鮮明な響きの声。
「あーっ、いやいやいや、ごめんよ、そうじゃないんだ、でも、その・・・似合わないって言うか、やりたくてやってる感じじゃ、ないなと・・・どうしても思えて仕方なくてさ、どうしてなのかと気になったんだよ。本当にすまない。」
リンは少し焦りつつ謝るが、相手は突然涙をこぼして・・・化粧が崩れかける。
それが自分で判るようで、繕うように顔を隠した。
「わ、悪かったよ本当に。俺も田舎者だから・・・こういうところで生きてる人のこと、わかってなかった・・・すみません。」
その言葉が、とても久しぶりな純粋な言葉で・・・優しさで。
崩れたままの顔は涙を溢れさせたまま止まらなくなる。
リンは慌て始めた、あれ、声の感じや、帽子をとったその髪はよく見ると長く伸びていて、も、もしかして女の子なんじゃ・・・そう思え始めて。
「あ、の・・・・もしかして俺、凄く失礼?」
泣き崩れたままの遊び人は、首を横に振る。
「す・・・すみません、僕こそ、突然泣き出してしまって・・・。」
「・・・僕・・・君、男か女か。」
「リン、それの方が失礼というものだろうに。」
見ていられなくなったらしく、ティートは仕方なく横から入る。
「あなたは・・・」
遊び人に問われ、ティートは笑顔で答える。
「私はティート、こっちはリン。さ、泣かないで話してはくれないか、せめて泣いてる訳くらいは、ね。」
「あ・・・あなたはもしや、もしや賢者様・・・では?」
問うたことではなく、問いが帰ってきた。
「・・・ああ、まだ未熟な、ね。」
「は・・・そうですか、天は既に賢者をこの世に選ばれたのですね・・・。」
「うん?」
リンは話が見えず、首をかしげた。
ぼうっと、首をかしげて黙っているリンを見かねたか、ティートは遊び人少年の手の本を指さして言う。
「君の読んでいる本は、魔法の本だね。」
「・・・はい。」
「魔法が好きなのかい?」
「はい・・・本当は・・・この本を活かせる職に就きたいと思って居るんです・・・。」
それを聞いて、リンははっとして、
「ああ、何か合点がいった。君はそうしているのが嫌そうに見えて仕方なかったけど、何でなのかわかったぞ。」
そう、妙に明るく自信ありげに言う。
「君の目指すもの、それは魔法の使える・・・賢者なんだろ?」

言い当てられたのは初めてだった。
みんな馬鹿にするばかり、朝起きて本を見たら、らくがきがされていたりもした。
何度も読んだ、たった一冊の、宝だ。

「良い本だね、私も読んだことがあるよ。なかなか手に入らない。私も今は手元にない。」
「賢者様・・・。」
「ティートでいいよ。」
その横で、リンははあっと息を吐き、いいところを全て持って行きそうなティートに負けじと・・・
「俺のことはリンでいいぞ。そしてあっちで笑ってるの、ミレーヌ、隣、アリナス。」
「あ・・・素敵な方達ですね。僕はルリノといいます・・・あ。」
気がついたらリンに手を引っ張られていた。
「君さ、ここに居るの嫌だろ、俺と一緒に来ないか。」
「ええっ!」
「それはいいね。」
「け、賢者様・・・。」
「ティートでいいって。それに、ひとついいことを。今からイエスと言えば、君は勇者の旅の友だよ。」
「・・・は・・・なるほど・・・。」
ルリノはよほど頭の回転がいいらしい。
「そうですか・・・あなたは、勇者様でおられましたか・・・。」
ついて行けていないリンは、だからリンでいいって。と、言って、イエスを待たずに少年を連れ出した。


「良かったのかしら。」
アリナスは展開に驚いているようで、
「いいじゃなーい、この子素顔はこんなに可愛いわー。」
思いもしないほどの、ルリノの素顔の美少年ぶりに声を高らかにするミレーヌ。
「荷物何もないのね。その本だけ?」
アリナスはルリノに問う。
「僕の物は、これだけですから。この派手な服も、借り物ですし。」
「かっわいそ・・・なんていう親方。」
アリナスは本気で驚く。
「いいえ・・・あの人も僕が飢えずに生きてこられた恩がある人、恨んではいません。」
「良い子ねえ・・・。」
ミレーヌはそう言いながら、ルリノの長い髪を何故か梳いていた。

「おっし、じゃあ、ルリノはこれから、賢者になるために頑張るんだぞ。」
リンは唐突に言い出した。
「・・・あの、悟りの書は既にティートさんがお使いになられたのでは・・・。」
「俺がなんとかするから、お前は魔法を覚えるんだ、使えなくても覚えるんだ。今でもかなり知識はあるんだろ、頑張ればなんとかなる!」
「なんと・・・根拠のないことを言いますね。」
「自信ないか?」
「自信でなんとかなるものでは・・・」
「だーから、俺が何とかしてやるから、お前は頑張ればいいんだよ、俺が付いてるから、黙って俺達についてこいよ!頑張ればなんとかなるんだ、俺だってそうしてきた!」
困惑気味に笑うルリノ。自信たっぷりなリン。
「大丈夫さ、奇跡は起こる。私もその奇跡でこうしているのだからね。」
ティートは凛々しい笑顔。
「奇跡・・・。」
「全く、ティートは何でも良いトコ持って行くんだからなあ・・・!」
リンはティートを横目で睨む。でも笑っている。
「ははは、良かったじゃないか。なあ、リン。」
「あ?」
「足りない物が補えるというものさ。」
ティートはリンの顔を見ながら、妙に優しく笑う。
そんな顔で見られてはと、意味も分からずリンは赤面した。



リンはルリノの修行に、ずっと付き添い、共に戦った。
独学ではわからないことは、ティートとミレーヌが教えた。
最初は何の戦力にもならない、か弱い少年でしかなかった。
覚えていたのは、生きるために仕方なくやっていた、芸。
それは戦いでは使えない。
だが・・・奇跡は本当に起きる物だ。
あるときのダーマ神殿にて、少年は賢者として生まれ変わった。

女所帯の中で、足りなかったのは、リンと対等の少年の友であろうと、ティートはそう思い・・・切れ味のある才能に、負けないように励まねば、とひとり新たに思う。
あるとき、リンは故郷アリアハンに帰り、弟分の様な少年を母に紹介したのだった。
勇者の、いやひとりの少年の母は、友達が出来たのねと、ルリノの頭を撫でたものだった。
困ったような顔で撫でられるルリノを見て、リンは笑った、心から気持ちよく笑った。





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