第32話 かくして姫は救われた、そして。
そこは、ラズベリーが傷を癒やしている、魔界城の一室。
べッドの隣には、嫌そうにりんごの皮をむくプディングがいた。
「いやぁ、幸せこの上ないね、流石に皮むきも上手だなあ♪」
随分と元気そうに、傷を癒やしつつも、愛しのプリンちゃん直々のりんごを待っていた。
「何でオレがお前のりんごむかなきゃなんないんだよ、めんどくせー・・・」
ジト目で嫌そうにむいているプディング。
ラズベリーの看護には、回り番があって、時々仲間たちが回り番で診ていた。
今は、プディングの番だった。ラズベリーはりんごが食べたいなぁ〜と、おねだりしてみたところ、意外とすんなりと、
仕方ねぇな、という返事が来たのだった。
それをなんとなく集まって、眺めている仲間たちである。
「良かったですね兄上」
しみじみとしている、弟王子カフェである。
仲良くなって良かったなあと、兄上やみんなが元気で、本当に良かったと、この光景はその証と。
「仲良くなってないです!回り番に従ってるだけだぞ!おい、切れたからサッサと食えよおら!」
乱暴にりんごの皿をつきだした。
「やあ、ありがとうプリンちゃん、本当今までで一番幸せだねぇ、らしくない事もしてみるものだね」
「もう二度とすんな馬鹿野郎、二度はねぇからな」
「そうだね、あんな顔したプリンちゃんはあんまり見たくないからね」
うるせぇ、早く食え、と。
その様を、なんとなく集まって見ていたみんなである。
ラズベリーが回復し次第、帰る予定だ。
魔界城のもてなしは、素晴らしく豪華で居心地もいいが、早く帰りたいのも多くある。
あれ以来、神様たちは出てこないし、魔界も落ち着いて、魔界のわりには至って平和である。
「私の中にそんなすごーい御方がいるだなんて、信じられませんわ、見てみたいような、ちょっと怖いような気がしますわね・・・」
「ミント姫もご立派でしたよ」
「そうよね、アタシなんて、なんにも出来なかったもの、まあこれまでのお返しはできたかしら?」
「姉上様、もう気軽に魔王の真似などなさいませんよう」
ハイハイ、わかってるわよ〜
魔界の姉弟が会話する。もとはといえば、である。
よくわからない事は色々あるなれど、ひとまず一件落着しそうで、みんなホッとしていた。
魔界王城、妙な花は咲くが、平和に一時が過ぎていた。
「はい、出来たよ、これで少しは落ち着くと思うよ、けど、その力は徐々に自分でコントロールしていかないと
今後は手助け出来ないからね、頑張って、少しずつ自分のものにしていけばいいよ」
「ありがとう魔界王、これだけの事をして貰って、何にも返せねぇとはなあ」
魔界王ブラックペパーに、やっと完成した魔力制御アイテムを貰い、アプリコットはそう言ったのだった
「僕たちも、色々貰ったのさ、妹が帰ってくれたのは君たちのおかげだし、一件のおかげで闇に動くものや、
神々の存在なども知ることができたから、魔界にとっても君たちの活躍はありがたかったよ?」
「そうか、そうだなぁ、あのケバケバしい邪悪しか感じねぇような輩、人間にとっても脅威だよな。あれ結局、何だったんだかな」
邪悪しか感じない、謎の女の姿の、魔王なんてものではないもの
「あれは、恐らく、邪神かと」
魔界四天王アルデンテが、そう言う。アルデンテはその一件以来、アプリコットの臣下になりたいと申し出て、アプリコットを困らせていた。
邪神、魔界には伝わるらしい、人間界にはあまり残らない、謎の脅威
「他に考え付きません。私は今まで様々なところに潜り込み、探ってきました、
その事を少しずつまとめてお伝えしたいと思っております、どうか私めをお側に置いてください、アプリコット様」
「そう言われても、お前は魔界の大事な重役で、こっちにも色々あるしよぉ、
大体お前は色々ありそう過ぎて信用していいのか、まだ判断つかねーんだけど?」
「聡明で正直なアプリコット様にこそ、私はお仕えしたいのですが。」
お前が見てるのは、魔王の力だろ?
魅せられたような瞳を、忘れてはいない
それは、そうかも知れません、とアルデンテ。ですが、と続ける
「私はあなた様に、それ以上のものを、見たのです。かつて魔王様の力に魅せられ、
私は彷徨い、この魔界城に辿り着いて、そしてようやくあなた様に会えました、神々しいまでの、お力でした。」
「あーもう、そんな目で見られても、俺は友達付き合いくらいしか、してやれねーぞ?
俺の臣下って事はシチュードバーグの臣下って事だ、色々手続きがなあ、俺もそんなに国において力はねぇからさー」
魔界王に、どうにかしてくれと見やるものの
「アルデンテがようやく見つけたのなら、僕の方は構わないよ、行っておいでアルデンテ」
「あ~、なんかこういう、いかにも臣下みてーなの、いなかったから変な感じだぜ」
かくして、アプリコットに臣下が増えそうだった。
いいんじゃないの、と回復したらしいラズベリーは言う
オメーは利用するとかしか考えてねぇだろ、とかアプリコットに返されるが
「臣下だろうと友達が増えようといいんじゃないのかい、もともと妙なのが多いんだから変わりはないさ」
なんて更に返ってくる。
「仕方ねーなー、まあ、まだよくわかんねーけど、悪いヤツじゃあなさそうだから、友人として連れてくって事で」
「ありがとうございます!」
アルデンテの満面の笑顔
なんだ、そういう顔できるんじゃん
アプリコットはアルデンテに手を差し伸べた
「ああ、我が至上の喜びが・・・私め、アプリコット様に決して損はさせませぬ、
友人として臣下としてお役立て頂けましたらば、こと幸せに御座います!」
堅苦しいからやめろ~と、アプリコットは笑っていた
「魔界城、お世話になりまくりました、だなー」
「すごいリゾートホテルみたいなおもてなしされてしまって、快く色々してくれて、
魔界王は計り知れない善き御方だね、本当お世話になりました・・・」
アールグレイとガナッシュは、帰りの船の上で、魔界の島が閉じてゆくのを見守っていた
魔界リゾート、地下の天国、魔界という言葉だけで想像すると禍々しくおどろおどろしいものばかり、
先入観で思い浮かべるが、食べ物もおもてなしも寝室も何をどこをとっても一級品のもので
激しく、何が起きるかわからない日々の癒しになってくれた。
帰ったら、またいつもの生活が戻ってくるのだろうと、変わらない幸せではあるが、
ちょっとだけ惜しくもあったりして、魔界王には頭が下がるなあと思いながら
船で待たせていたシャーベットたちも、途中から呼び、船の整備もやってくれた魔界の兵士たちや
ちょっとびっくりするけど、慣れれば面白いと言えなくもないマンドラゴラの花や
いつも暗めではあるけど、空は濃いめの青だったこと、思うより空気も澄んでいた。
「お姉さん、何でオレのことそんな、見てんの」
「いやぁ、アタシにも、あんたくらいの弟がいるけど、行方が知れないんでね」
シャーベットとグラニューの会話である
「オレに弟さんの姿を重ねてるのか?」
「髪と瞳の色、アタシと同じでね、あとは聖命持ちの、可愛い弟だよ」
「聖命・・・!オレは確かに聖命持ちの聖術使いだけど・・・」
「歳は今年で14ほどの、右肩にアザのある、子だけど」
「ええッじゃあ、あんたがオレのお姉さんってことなの?!」
シャーベットは袖をまくって、不思議な形の妙にきれいなアザが右肩にあるのを見せた
それを、フレークも見る。
「見事なほどに合致してるなあ、名前もシャーベットだしな」
「あんた、生まれや育ちは、海賊の前とか覚えてないのかしらね?」
シャーベットの記憶、断片的にある、母親なのか、はたまた姉なのか、若い美しい女性の、おぼろげな記憶、
それを、グラニューに話してみた
「それは、アタシたちのお母様だわ、同じ色の髪の、優しそうで、線の細そうな女の人、幼い頃に・・・」
アタシが守れなかったものの記憶。
「何?その人は、オレの母さんかも知れないの?!」
シャーベットはまくし立てる
「うーん、ねぇシャーベット、アタシたちを海賊で雇ってくれない?そうしながら、肉親なのか少しずつ、確かなもの、探してみない?」
「あ、うん、構わないよ、ねぇ、姉さんかも知れないなら、あの、姉さんとか呼んでもいいかな?!」
もちろん、と返すグラニュー
「わあ!大変だ!ビア〜!どこだよっ大変なんだって!聞いてよ〜!!」
「元気な子だなァ」
フレークは、ビアに今知った驚きを伝えたくて探しまわるシャーベットの姿を、なんとなく小さかったお転婆なグラニューに重なるなあと、眺めていた。
魔界の門が閉じる頃
お互い手を振り合い、一礼して、魔界の門は再び閉じた。
あとは帰るだけだ。
と思ったら
空から飛んできた、人影二人。
それは、行方がわからなかったままの、ガーリックとグラノーラだった
「わあ?!なんだ?!」
ガーリックはともかくグラノーラは危険な印象しかない、アールグレイは剣を構える
「いや、おさめてくれ、敵ではない、グラノーラはもう無益な殺生はせぬ」
「ガーリックさん?今まで何っつーか、どこにいたんですか?!」
ヨーグル島近辺に居た、と。つい最近やっとここへ辿り着いたという
「追いつけなくてすまぬ、ヴァ・ナーナの気配がしたのでな」
「あんた、あのケバケバしい・・・ヴァ・ナーナとか言う奴のことを知ってるのか」
アプリコットはガーリックに問う、知らないうちに色々動いてるらしいと思いつつ
「うむ、アプリコット姫だな、ご無事でなにより・・・あの邪神ヴァ・ナーナも、もとは我らが魔神族の者、
放っておくわけにはいかぬ故、我らも助力したく馳せ参じたが、ここにはもう居らぬようだな・・・」
「とりあえずはなんとか、追い返すくらいはできたんだが、また現れるか、あいつ」
期を狙い、また脅威はくるだろうと。
だが主らは、帰るといい、しばらくは平和に過ごす事も大切なことであろうと。
帰って、仲間や家族に、元気な顔を見せてあげてほしいと、ガーリックとしては珍しい優しい笑顔で言い、グラノーラと共に飛び去った、挨拶だったのだろう
「色々あったなあ」
「本当に」
船上から、はなれていくヨーグル島を遠く見やりながら、一同、それぞれの思いが交差して、
ひとまず、アプリコット姫を救うというか、連れ帰ることが叶うと、そのことを喜ぶ
船室にて、アプリコットは考えていた
さーて、帰ったら父さん母さんになんて言おうか
絶対面倒なことになっているに違いない
その上で
アルデンテというひろいものを臣下に加えることを、
あと、ここまでしてくれたアールグレイ、ガナッシュたちをはじめとする者たちへ
なにか礼はできないか、考えていた
「お前たちさあ、ここまで頑張ってくれたしよぉ、昇進とか興味あるか」
「えっ!昇進とかできるんですか?!」
「昇進すると給与も上がるという・・・生活が楽になりますね」
騎士たちは昇進という言葉に目を輝かせた
けど、突然なんてまた?と、不思議そうでもある
「迷惑かけたからな、礼はしたいんだよ、けど、なんか物とか貰っても何だろ?
だから、俺に出来ることで、アルデンテのついでもあるから、みんなの昇格進言してみようと思ってよ」
「いいのですか?アプリコット様が大変では?」
「まあ、うちの親父に進言してみるよ、俺に決定権はないけど、判を押してくれるように熱意を持って進言するさ!
まあ、それっくらいしかしてやれないからなあ」
「何言ってるんスかー!すごいご褒美ですよ!やったー給与上がるぜ!」
アールグレイ、大喜び。
「ついでになんだが、ガナッシュ、プリン、あとロゼ」
は、はい?!
なんだよ?!
なんでしょうか・・・
「おまえら、いつまで男のふりしてんの?いい加減辛くねーか?」
「え?!だ、大丈夫ですよ?」
「家の決まりだからな」
「父が許すはずは御座いませんよ」
「ハア、おまえら、見てるとしんどそうだから。いい加減それはお終いでいいだろ?」
アプリコットは、男装三人にそう言った
「ここは、めんどいついでに、権力を行使してやるよ、ガナッシュは自主的だからやめればいいし、
プリンは目覚めて力も使えるんだから、自然に過ごせ!ロゼのところの伯爵には、娘に無理させてはいけないというお叱りを入れてやる」
「突然言われましても、そんな」
「おまえら、可愛いのに無理してるように見えてきた、今までは自由だと思ってたけどよ、無理してやる必要はねぇよなあ」
少しずつでいいから、考えてくれと、無理して男装生活を送る三人に、もういいだろと、アプリコット。
それを見ていたアールグレイは、
「どうだろうと、ガナッシュは俺の相棒で仲間だし、なんか困ったらサポートするから!」
「アールグレイ・・・うん、お前は何があっても変わらずいてくれたね」
「変わらずっつーか、男だとはもう思ってないぞ」
「う、うん?!」
「ガナッシュは自由に生きたらいいと思うぜ、自由の国シチュードバーグの騎士なんだしさ」
「アールグレイ・・・ありがとう、アプリコット様、考えてみます」
「まあ、少しずつ楽にしようぜ、そんなことしかしてやれなくて、わりいな」
とんでもない!の三重奏
「オレ、ただでさえチビだしナメられないかなあ、こんなので女だったら、部下ついてくるかな」
「プディングさんは実力派ではありませんか、おのずと惹かれてついてきてくれているのでは」
「ロゼ博士こそ、そんだけの博識な実力者なら、なんにも困らないだろ」
まあ、じゃあ決まりだなとアプリコットが言ったところで
「お姉様あ、帰ったらたくさん遊んでくださらないと、ミントはお姉様の髪をサラサラ梳かしたくてしかたありませんのよ~
あと、素敵なドレスを三着用意していましたのに、まだ着てもらっておりませんわ!」
あ~~~
ミントちゃんの着せ替えごっこ好き忘れてたぜ
着せ替えたところ、見せてもらえないもんなあ
と、アールグレイがなんとなく言うと
何だ見たいのかと、なんとなくヤキモチ気味のガナッシュ
確かに見たことはないなあと、カフェラーテ
見たいんですかと、ニヤニヤされるカフェラーテ
「お姉様は意外と恥ずかしがりやさんなのね、あんなにも素敵でお美しいのに、誰にもお見せにならないなんて!」
「ミントちゃんの趣味はキラキラチャラチャラし過ぎててなあ・・・」
「あらお姉様!もっとシックでオトナなものがよろしくて?!ああっ気付きませんでしたわ〜!」
あ~、日常だ
アプリコットはつぶやいた
これが、いつもの日々だ
やけに、久しく感じるのは
それだけの大変で激しく厳しいことがあったからか
まだ、船の上だが、アプリコットは思う
俺は、みんなに救われたよ、どんなものであれ、俺は俺で、みんながいて
こんな俺でも、いなくなれば助けに走ってくれる
事実上臣下でも、俺は友達で仲間だと思ってる
こんな変わった姫を慕い、一心に集まってきてくれて、
俺は本当に、救われたよ。
そして、こちらは、シチュードバーグ王城。
国王カマンベールと、王妃アンジェリカは帰国していて、
アプリコットたちの普段の奔放さが幸いしたのか、
「あら、また遊びに行って帰ってこないのねぇん」
「土産物が沢山あるのにのう、早く帰らんかの、我が子らは」
という、呑気すぎる反応だったので、大臣ジンジャーのビクビクはひとまずおさまっている。
さらわれたという情報と、本人たちから来たカラメルの港の一件がまとめられた手紙というか書簡というか
それらをまとめて、とりあえず本人らは何か頑張っているようなので
帰国したばかりで頭がカラッぽで浮かれている国王夫妻には告げていないという。
落ち着いたところで、お話致すといった感じの。
また、手紙かなにかが届くかも知れないと、カリーの王子二人を迎えに来ているという
カスタードという僧騎士も、王城に足を止めてもらったままである。
そんな、呑気極まりない状態で、入ってきた一報
フォンドヴォー帝国皇帝の暗殺未遂の情報。
何者かにより皇帝ウスターソースの身が狙われ続け、とうとう未遂に至ったと。
しかも、フォンドヴォーは戦を準備していたという。
なんとも、きな臭いニュースであった・・・
2025/02/23更新